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今という時間

今という時間 - [249]

「健康ブームの陰で」
松村 尚子(まつむら なおこ)

 このところテレビの健康づくり番組がいよいよ盛況である。癌、心臓疾患、脳血管障害、認知症、高血圧、高脂血症、糖尿病、そして何より「健康の大敵」である肥満。それらを防ぐには何が必要か。どのような食養生が、食材が、調理法が最適か。どんな運動をどれだけすれば適切か・・・。手を替え品を替えて同パターンの映像が流される。しかもその多くが高視聴率を稼いでいるという。
 確かに病気は怖い。できれば健康で快適に長生きしたい。そのためなら多少の努力も出費も惜しまない。かくて、多種多様な健康食品やサプリメントの売り上げは伸び続け、スポーツジムやプールが繁盛する。富と権力に次いで不老不死の妙薬を渇望したかつての帝王らには比すべくもないが、現今の我が中高年層の間の健康ブームは、自らの老病死への強い不安や恐れと一体のものといえそうだ。
 その一方で、青少年達の“ネット心中”に見られるような生への無機的な構えや、自暴自棄とも見える自虐・嗜虐的な犯罪・非行行為の数々。そこには、大人世代とは裏腹な生への執着の希薄さ、死への畏怖の弱さが垣間見える。
 日本では今GDPの値が表す通り、社会全体としては豊かさを誇っている。だが、個々人の暮らしの深奥では、国の政策・制度の予測と絡めて自身の先行き・将来像が描けない。そのような現実の不安・不満が上辺の豊かさの陰に巣くい、老いや病への不安に苛まれる大人と生の充実感のもてない若者を、日夜生み続けているといえば言い過ぎだろうか?

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