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今という時間

今という時間 - [242]

「教訓の伝承」
西田 潤一(にしだ じゅんいち)

 昨年12月のスマトラ島沖の地震とその後の巨大津波、および本年3月のニアス島の地震は、あらためて自然の猛威を我々に認識させた。インド洋には地震が少なかったので、住民は津波の経験を持たず、そのことが避難を遅らせたと考えられる。しかしその一方で、波が引いていくとき、津波に気づいていた古老が同地域のアッチェにいたことも報道されている。
 この地震はインド洋に面したスンダ海溝に沿って起こっている。この海溝に沿った歴史に残る地震の記録を調べると、19世紀から20世紀初頭には津波の記録が存在するのである。インドネシアの資料によれば、1833年にはスマトラ島中部沖で、1861年にはスマトラ北部パダンの沖合で二度連続して、1907年にはスマトラ島沖合のニアス島に津波を伴った地震が発生している。また、タイの記録には1881年にアンダマン・ニコバル諸島で発生した地震には津波が発生したと推定できる記録がある。
 古老が津波に気づき得たのは、おそらく子どもの頃にその前の世代の人達から地震による津波の経験やそこからの教訓を聞いて記憶していたからだろう。しかし、ほとんどの地域では最後の津波から100年以上経過して、数世代が交代したために経験が伝承されなかったと考えられる。
 天災は、数世代が交代する100年単位の間隔をおいて起きることが多い。寺田寅彦は「天災は忘れた頃に来る」という意味の言葉を残しているが、あらためて教訓を世代から世代へと引き継ぐことの大事さが感じられる。

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