ここからサイトの主なメニューです

Home > 読むページ > 今という時間 > 英国的散歩と日本人

今という時間

今という時間 - [236]

「英国的散歩と日本人」
芦津 かおり(あしづ かおり)

 毎夏、英国の親戚を訪ねると、きまって散歩に連れ出される。ゆるやかに広がるヨークシャーデールに羊や牛はのんびり草を食む。まさに絵葉書のような美景のなか、楽しいカントリー・ウォークが待ち受けているはずなのだが・・・いやいや、現実はそう甘くない。
 私にとって唯一最大の<敵>は動物の糞。道という道にやたらめったら多種多様な糞が陣どり、避けて通るには機敏なフットワークが必要となる。足元に全神経を集中させるから、景色を楽しむ余裕などあろうはずもない。「ほら、きれいな空よ」などという誘い文句にうっかり顔を上げようものなら、それこそ「ウンのつき」である。連れの英国人たちは、私の恒例の「糞騒動」を面白そうに見守る。
 1867年、福沢諭吉は『西洋衣食住』で「都(すべ)て西洋人は日本人よりも身の廻りをきれいにする風俗なり」と記した。<未開><野蛮><不潔>といった自己イメージを払拭すべく、がむしゃらな近代化=西洋化を進めた日本。高度成長期を遂げた頃には、病的なまでの潔癖症に陥っていたのかもしれない。
 現代日本では、洗いすぎて、<良い>菌まで殺し、かえって不衛生になるという「アライグマ症候群」の問題も深刻化している。体についたバイ菌や排泄物を異常なまでに忌避するこの傾向は、人間の肉体というもっとも身近な<自然>を否定する点で、「自然との共存」の動きに逆行するものであろう。
 靴についた大量の糞を、家の裏口のマットでゴシゴシこそげ落とすイギリス人。彼らのおおらかな態度に学ぶところは多い。

Home > 読むページ > 今という時間 > 英国的散歩と日本人

PAGE TOPに戻る

ここからサイトの主なメニューです