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今という時間

今という時間 - [207]

「後姿を見る」
蜂屋 良彦(はちや よしひこ)

 知り合いのバレリーナから「後姿から年をとるんですよ」と言われたことがある。そう言われてみると、思い当たることが多い。かつて父親が私の下宿を訪ねてくれた折、最寄の駅まで送っていったことがある。プラットホームに立つ父親の後姿を見て「親父も随分年取ったものだなあ」と大変ショックを受けたことがある。30年経った今でもその姿をはっきりと思い起こすことがある。
 正面から見た自分の姿は、鏡像などによって何時も確認する機会も多い。気になるところがあれば、多少は修正しようと努力することもできる。自分の後姿は普段あまり気にはならず、よほど意図的に注意しなければ無関心に過ぎてしまう。
 後姿に対する無関心さについて感じることがある。私は満員電車で通勤することが多いが、リュックサックを背負ったままの姿で無神経に乗り込んでくる人がよくいる。行楽のシーズンでは特にそうだ。そのリュックサックで顔や胸を引掻かれるという経験をしたのは私だけではあるまい。このような不愉快な経験をさせられるのも自分の後姿に対する無関心さのなせる業なのかもしれない。
 かくいう私も、若い頃はよく山歩きをしたが、背中の方に注意を払った記憶があまりない。たぶん多くの人々に迷惑をかけていたのではないかと反省している。

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