今という時間 - [172]
「学力と体力」
中桐 伸吾(なかぎり しんご)
現在、大学が抱えている問題の1つに学生の学力の低下がある。各大学ではこれを解決するために様々な取り組みを行っている。
また、学生の能力低下は学力だけでなく体力にも現れている。80年前後をピークに年々低下傾向にある。しかし、ほとんどの大学では体力の低下についてあまり問題視していない。その背景には体力より学力、換言すれば「体を動かす」よりも「考える」ことを重視する風潮がある。
しかし、「体を動かす」ことと「考える」こととは対立するものではない。「体を動かす」ことの中にも「考える」と言う行為が含まれる。例えば、スポーツの試合では的確な状況判断と正確な予測が要求される。これらの能力に優れていなければ決してトップ・プレーヤーにはなれない。「イチローは脳で打つ」といわれる所以である。
また逆に、私達は外界の事物を認識する時、五感と呼ばれる感覚器官を駆使する。そして、その情報をもとに「考える」のである。その結果は筋肉を通して言葉や文章などになって表現される。考えているだけで体は使っていないつもりでも、私達の五感は働き、筋肉も活動しているのである。
このように「考える」と「体を動かす」とは不即不離の関係にある。そして、学力、体力ともに向上してこそ、このめまぐるしい情報化社会に適応していけるのではないか。