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今という時間

今という時間 - [162]

「私設応援」
村山 保史(むらやま やすし)

 「芸能人や政治家の子どもはいいですね。簡単に有名になれるのですから」。テレビ番組に影響されたのか、義憤にかられたように学生が話しかけてくる。「どうだろう、彼らにもそれなりの苦労はあると思うけど・・・」
 一応、物わかりのよい答えを返してはみたものの、本当のことを言えば、自分にとっても親の七光り芸能人だとか、二世政治家だとかは、昔からこころよく聞ける言葉ではなかった。芸能や政治的手腕が遺伝するなど、ありえないことだと思っていた。ごく平凡な両親の子どもだったから、嫉妬心が影響したのかもしれない。
 しかしいつからか、そういった人たちにさほど違和感を感じなくなり、ときには声援を送れるまでになっていた。何がきっかけだったのだろうか。才能も遺伝すると考えを改めたからではない。遺伝しないと頑なに信じ続けているから、いつしか違和感も薄れていったのである。
 社会的な成功を確約する親譲りの才能。何とも便利ではあるが、そのようなものはない。だからこそ、特別に由緒正しくもない私や君が有名になるかもしれないし、世襲制度に含まれる矛盾も明らかになるのだろう。件(くだん)の芸能人や政治家に声援を送ることは、同じく便利な才能をもたない自分自身を応援することにもなる───。
 ぼんやりとそのようなことを考えながら、大した自身もないまま、学生には伝えられないでいた。

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