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今という時間

今という時間 - [127]

「トップのことば」
河内 昭圓(かわち しょうえん)

 さきごろ亡くなった前首相の就任当初、国民の支持率は記録的な低さであった。不人気を誘導した大きな要因の一つは、この宰相のもどかしいまでの訥弁(とつべん)にあった。在任期間を通 じて口べたに変わりはなかったが、支持率が54パーセントを超える変化を見せた事実は記憶に新しい。すこし大げさにいえば、「君子は言(げん)に訥(とつ)にして、行いに敏(びん)ならんと欲(ほっ)す」という孔子の教えにかなったのである。
 晩年の毛沢東。映像に見るこの巨人の風貌は、老いて忘言の病を得たかと思わせた。外国の要人と握手を交わす姿にも、ことばを発する気配がない。「毛沢東も終わりだ。ものをいうこともできなくなっている」と当時の中国に通 じた友人に語りかけた。「それは違う。彼はいま、ものをいってはならない状況にある。たった一言で中国が動く。世界が動く」と友人。達者の見解であると感じいった。
 大昔、稀代の英雄漢の武帝は音楽をつかさどる役所「楽府」を新設して全国の歌謡を収集させた。役人が良い歌を選んで帝前に披露する。たいてい武帝は無表情。役人は、天子さまお気に召さぬ かと気が気でない。あるとき、それは軽やかで若々しく元気のよい歌謡であった。武帝は思わず手を打って「これはよい」とつぶやいた。失敗であった。それより以降、役人は同様の歌ばかりを演奏して記録し、他の多くを捨てた。
 トップたる者のことばは、古来かくも難しいものなのである。

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