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今という時間

今という時間 - [124]

「唐詩三百首」
河内 昭圓(かわちしょうえん)

 『唐詩選』は、『論語』とともに日本では馴染みの深い書物である。大学の教養的授業でもずいぶん多く読まれてきた。中国の明代に成立したこの書物を、徳川五代将軍綱吉の頃の儒者荻生徂徠(おぎゅうそらい)が推重し、ついで徂徠の弟子服部南郭(はっとりなんかく)がこれに訓点を施して出版したことが流行の原因となった。
 中国では明代末期から清代初期にかけて、初学者の学習用テキストとしてよく読まれたが、十八世紀になって編纂者{李攀龍(りはんりょう)}の真偽が疑われて権威を失い、新しく現われた『唐詩三百首』{蘅塘退士(こうとうたいし)編}に流行の座を奪われた。
 現在、中国の書店には児童の知識教育に重点をおいた絵本があふれているが、そういったものの一つに絵入りの『唐詩三百首』があって驚いた。現代中国音をローマ字で表記する併音(ピンイン)が並記され、語句の注釈が施されている。併音にしたがって音読させ、注釈にしたがって親が語句の意味を説明するのであろう。このほか同様の体裁をもった絵本に、有名な漢文を節録した『古文』、漢詩を採録した『古詩』などがある。中国では児童教育の高級化、旧教育への回帰現象がおこっているのである。
 これをもってすれば、我が国でも『百人一首』を暗記させ、『枕草子』・『方丈記』・『徒然草』を節録して素読させる教育があってよいように思う。『論語』・『唐詩選』も悪くはない。今年の命題「教育改革」は、案外に復古のなかにあるのではないか。

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