今という時間 - [110]
「流行り言葉」
山本 昌輝(やまもと まさてる)
巷の流行り言葉は当然、カウンセリング場面にも入りこんでくる。「過剰反応」や「癒し」、「アダルト・チルドレン(AC)」なる言葉を来談者の口から聞くことが多い。
流行り言葉が聴く者の心にピンと響きやすいことは否めまい。
しかし、ともすれば微妙にずれるような事態であっても、その言葉に当てはめてしまおうとする場合があり得るのである。流行り言葉によってすべてがうまく説明されたかのように錯覚されている場合が少なくない。どうも流行り言葉の便利に思えるところがミソのようである。
心理面接の世界では、様々な心理をできるだけ日常用語で理解しようとする。流行り言葉の使用には慎重でなくてはならない。というのは、その言葉が来談者の容態に適合するというよりも、来談者の容態をその言葉に適合させるような面が多々生じてくるからである。丁度、足にあわせて靴を選ぶというよりも、流行の靴に足をあわせるといったところだろうか。
個々人の違いを十把一からげにしてしまうのは問題であろう。簡略化と便利さを重宝する世相では、個々人のこころを大切にすることは期待できないのではないか。
流行り言葉にも、便利さ故に流布しては、いつの間にかその便利さが生活を束縛してしまうことについて考えさせられるのである。