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今という時間

今という時間 - [106]

「難 問」
村井 英雄(むらい ひでお)

 先日、学生から次のような場合、高齢者に座席を譲るべきか、と問われた。学生の話によると、電車が混んでいて空席がなく、疲れていたので、次の電車を待って座った。そこへ年配の女性が飛び込んできて「学生さん席をかわってよ」と要求された。仕方なく立ったが、一電車遅らせているのに、と不満が残ったという。
 この話に私は頭を抱え込んだ。 座席をめぐる話は多い。次のような例はどう考えるべきだろう。プロ野球のN監督が、ダイヤの乱れた超満員の新幹線に乗ったところ、野球選手がずらりと指定席に座っていた。通 路には年寄りがいる。監督は「野球で体を鍛えているのはこんな時に代わってあげるためじゃないか?」という。
 法学者の故S先生は、歳をとられてもバスや電車でいつも立っておられた。「席をどうぞ」といっても「いや、結構。ありがとう」と、笑顔で断られるのが常だった。これら三つの話のうち、最初の話に私はまだ回答できないでいる。二つめは監督の考えに賛成だが、指定席でも譲るべきか悩む。最後は先生に座ってほしい気持ちだ。さて、くだんの学生に私はこういうしかなかった。「君を立たせた年配の女性がS先生のような人なら君は気持ちよく席を譲ったろう。もし野球選手の立場にS先生がおられたなら先生は席を立たれるに違いない」と。
 それにしても、難問を発してくれる学生がいるものである。

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