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生活の中の仏教用語

生活の中の仏教用語 - [228]

白毫

「白毫」
浅見 直一郎(あさみ なおいちろう)(東洋史 助教授)

 オレンジ・ぺコという紅茶がある。インドもしくはスリランカ産の上級品を指すらしいが、また茶葉の等級〔細かさ〕を示す用法もあるそうだ。
 ぺコというユーモラスな語は、もともと中国語・厦門(アモイ)方言の「白毫(ペコ)〔白い毛、うぶ毛〕」から来ていて、うぶ毛のある若い茶葉を摘んだことに由来する。厦門は台湾の対岸、福建省にある港町で、紅茶の有力な積み出し港であった。英語のteaという語も、もとをたどれば厦門方言のte(茶)に行き着くとされている。
 中国では古来、白毫(びゃくごう)には何か特別な力が宿っていると考えられていた。清の王士(おうししん)の随筆『池北偶談(ちほくぐうたん)』巻二六に、「楽安(らくあん)県出身の左(さ)なにがしという男は、一日に五百里(清代では約二九〇キロ)も歩行することができた。あまりに速いので、木の枝に何度かつかまって、やっと止れるほどであった。この男、足の裏に白毫があったが、ある日足に痛みがきて白毫が落ちてしまい、それからは五百里の歩行ができなくなった」という話を伝える。また、さかのぼって四世紀、東晋王朝初代の皇帝・元帝は、生まれたとき額の左に白毫があったが、これは王者の相であると言われたという(『晋書』巻七六)。
 さて、特別な力をもつ白毫の代表は、何といっても仏の白毫であろう。
それは、『観無量寿経』に「眉間の白毫は、右に旋(めぐ)りて婉転して五須弥山の如し」とあるように、眉間にある右旋りの白い毛のかたまりであって、説法の前などに、仏はそこから一条の光を放ち、あまねく世界を照らすという(『法華経』序品)。仏の教化をすぐれて視覚的に表象したものと言ってよいであろう。仏像の眉間に水晶その他の宝石がはめ込まれているのを見ることがあるが、あれが白毫なのである。
 ところで、世界最初の茶の専門書である『茶経』を著した唐の陸羽は、お寺で育てられた孤児であった。このことからもわかるように、お茶はもともと仏教ときわめて縁の深い飲み物である。茶葉のうぶ毛を白毫と呼ぶのも、あるいは仏教の影響であるかもしれない。

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