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生活の中の仏教用語

生活の中の仏教用語 - [176]

化生

「化生」
木場 明志(きば あけし)(教授・日本近世近代宗教史)

美女に誑(たぶら)かされた剛者(ごうのもの)が、「さては化生の者か」と半ば自嘲し、半ば悔しがるパタ-ンは、異界ブ-ムに乗って相変わらず小説・劇画に頻出する。化生とは化けること、および化けたもの。要するに妖怪・変化・化けものをいい、化生の者となると、そこから派生して、美しく着飾って男を迷わす女、いささか古い熟語でいうなら妖婦を指すまでに至る。
 化生の語源は仏教語にあり、あらゆる生きものを生まれ方の違いによって四分類した四生(ししょう)の一つをいう。四生は、1. 胎生(たいしょう)。母胎から生まれるもの。人間、象、牛などの人類および獣類。2. 卵生(らんしょう)。卵から生まれるもの。孔雀などの鳥類。3. 湿生(しっしょう)。湿気の中から生まれるもの。蚊・蛾などの虫類。4. 化生(けしょう)。よりどころなしに、自らの過去の業力(ごうりき)によって忽然(こつぜん)と生まれるもの。天の神々、地獄の住人、前世の死の瞬間から次の生を受ける瞬間までの中間的存在である中有(ちゅうう)の生きもの。…であって、化けものを「化生」とすることは、死から次に転生(てんしょう)するまでの中間における霊的存在を表わす用例の一つであろう。
 化生には化身の意味の用例もある。『今昔物語集』には「義淵僧正という人ましましけり。…これ化生の人なり。」と、仏・菩薩の化身とおぼしき人に化生の語を用いている。仏・菩薩が人として現れることは化生としか説明できないのであろう。
 ところで、自らの業力による生まれ方を化生とすることは、現在の自分のあり方への認識次第で、人間が仏に化生することが可能であることを意味する。『仏説無量寿経』は、

これらの衆生[人々]、…かの仏[無量寿仏]に随(したが)いてその国[浄土]に往生せん。すなわち七宝華の中より自然に化生し、不退転に住せん。
と、浄土に往生する生まれ方の一つとして、無量寿仏[阿弥陀仏]の教えに帰することによる化生があると説く。親鸞も「化生のひとは智慧すぐれ無上覚(むじょうかく)をぞさとりける」[『正像末和讃』]と、浄土への化生をほめたたえ、勧めている。仏になることと化けものになること、共に化生であるのには妙に考えさせられる。

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