大学院進学で先生としての「足場」を作る

関口:田島君が大学院に進学しようとしたきっかけについて教えて下さい。

田島:教育実習に4年生の9月に行ったときに、その当時、漠然と特別支援教育を卒業論文のテーマにしたいと考えていて、実習でのエピソードを卒業論文に使おうと思っていたんです。いざ行ってみるとたくさん良いエピソードはあったのですが、自分が思っていたほど割り切れない。ここがいいよね、あそこがダメだよねっていうふうに、はっきりと言えないような状況が学校現場にあるなと感じました。

学校の先生は、いつでも自分が良いと思ったことが出来るわけでもないし、それが本当に良いと表明してよいのかどうか判断することが難しい。それが本当に良いかどうかもちょっと分からない。たくさんの「何か」に囲まれて働かれているんだなと、当時僕自身は感じました。

それで、その教育現場に自分が行くとなったときに何か自分の強みになる武器が必要ではないかと思って、当時の指導教員の関口先生に相談しました。大学院で2年間まず修士で武器、足場を作ってみるのもいいんじゃないか、と言っていただいたのが大学院進学を目指したきっかけです。

関口:田島君は自分から大学院に行きたいって言ってきたんですよね。

田島:大学院進学を選択肢の1つに入れていいのか分からなかったので、とにかく現場に出る自信がないと関口先生に相談しに行きました。大学院って将来研究者になる人たちが行くというイメージがあったので、明確に研究者を志していないのに大学院に進めるのかと疑問でした。でも、関口先生から現場に出てから自信を持てるものを大学院で勉強してもいいと言われて、自分は研究者にはならないと思うけど、不安を解消してから現場に出たいと思い、大学院進学という結論を出しました。

関口:教員になるためにも何か自分の強みになるというか、専門になるようなことをもう少し勉強してもらえるといいかな、と思って勧めたんだけど。田島君は好きなことがあったらどんどん調べたり資料読んだりするのも得意だったので、修士論文のことはあまり心配していなかったけど、実際はどうでしたか。

田島:関口先生は「好きなことだったら進める」って仰ってたんですけど、好きなことと修士論文との焦点がなかなか合わなくて、ちょっと面白い資料だなと思ったら、そっちの方に目がいっちゃって。本当にやらなきゃいけないことをほったらかしてしまうことが結構あって、修士論文は本当に苦戦しました。

関口:最初にテーマを絞り込むまで迷走してたんですかね。本学の教育・心理学専攻は、複数の教員が担当するゼミなので、いろいろな先生からの意見もいただけます。特に江森先生が数学教育の専門家なので、数学教育について資料も教えていただきましたね。

田島:
ゼミの時間じゃない時も他の先生の研究室に行って話を聞いてもらったりだとか、たくさん相談に乗ってもらいました。複数担当ゼミっていうのは本当に助けられたなって思います。
それと、教員になってから研修で江森先生の名前がちょこちょこ出てくるんですよ。江森先生の書籍が紹介されたりだとか、資料として出てくることがあって、すごい先生に教えてもらったなと実感しています。
当時、ちょっと分からないところもたくさんあったので、受けたアドバイスをしっかり今からでも長い時間をかけて、咀嚼していけたらと考えています。

関口:大学院生の時には分からないことでも、教員になってみて、あのことはこうだったんだなっていうのが分かったりもするでしょうしね。

先生として「今」大学院での学びを振り返る

田島:現在は枚方市で市費講師として働いています。大学の教職支援センターに要綱が張り出されていたのを見て、事務の方からも勧められて応募しました。

関口:今の仕事について聞きたいんですけど、特別支援学級の担任になって色々メニューを組み立てたり、子どもと関わるなかで、大学院での学びが生きているなと感じることはありますか。

田島:現場の先生を見ていると、自らが子どもと出会って感じたことを基に授業を組み立てておられるなとすごく感じます。自分の経験を最大限に生かして、それを子どもとの関わりに落とし込んでいる。それが本当にすごいことだと思います。蓄積したものを生かすから、経験があればあるほど豊かな実践になるというか。だから、1年目のまだ子どもと出会って間もない僕なんかは、同じようにやるのは難しいなと感じます。

関口:自分の狭い経験を補うために、文献を通じて間接的に知り得た他人の経験がちょっとヒントになるのかなって思ったりはするのだけど。

田島:子どもとの関わりのなか、この実践はあれと似てるなとか、あそこに繋がりそうだなみたいな、前に読んだものと繋がった時にすごく嬉しさを感じるんです。
繋がった喜びを感じられるっていうのは大学院で文献を読んできて、それを生かそうとしているからだと思います。経験はないからできないなと消極的になるより、自分の実践も何かにつながるかもしれないから試してみようってチャレンジする気が出てきますね。そこは特別支援学級で出会う子どもとの関わりでも、生きているのかなと思います。

関口:話は変わるけど、大学院に行っていたことについて同僚の方から何か聞かれる?

田島:職員室に同じ世代の先生が6人、7人いるんですけど、そのうち何人かから「大学院ってどんなところ、誰でも行けるの」っていう質問をされたことがあります。関心はあるんだなって思います。
おすすめはいつもしていて「大学院は自分のペースで勉強できるし、大学院生っていう肩書が学習会に行ったときなんかに受け入れてもらいやすくていいんですよ」って言うんですよ。でも、今、働きながら大学院に行くっていうのは考えにくい状況ではあります。

関口:社会人でも3年4年コースっていうのもありますしね。その人の忙しさに合わせて選べるとは思いますけどね。

立ち止まって考えることの大切さ

関口:学部卒でそのまま講師になっていたかもしれない自分と、大学院を2年経験して講師になった自分と比べたとしたら、違いはどの辺りでしょうか。

田島:大学院では、ちょっと立ち止まって、自分の興味関心に基づいて勉強できたっていうのが大きな経験でしたね。今、働いていると学校現場は状況が刻一刻と変わるから、瞬時に判断をして動くことがすごく多い。さらに、忙しいこともあって、子どもの反応とか瞬間、瞬間の表情をパッと感じても、スルーしてしまいそうになることがたくさんあるんです。でも、そこを立ち止まって考えると、子どもの違った面が見えてきたりする。大学院での経験があったからこそ、立ち止まって大切なことに目を向けられるようになったと思います。

また、大学院在学中には教育の分野にそんなに拘らずに、哲学や仏教、労働者問題や医療など、いろいろな研究会や集会、学習会に顔を出して、たくさんの人と出会えたっていうのは大きかったと思います。
学校の子どもが怪我をして入院して院内学級に在籍することになったとき、どこがその子どもに責任を持つのかと思ったことがありました。退院したら戻ってくる子どもなのに、「院内学級に在籍中は院内学級にお任せする」というような気持ちがありました。でも、子どもが、学校とのつながりが切れるんじゃないかと不安だと教えてくれて、自分の考えが間違いだと気づきました。
それで、院内学級の先生や看護師さんと連絡を取ったりして、自分は子どもの出会う人の一人なんだと考えるようになりました。ちょうど、大学院でたくさんの人と出会い、それが自分の研究に還っていくのと同じように感じましたね。

関口:あと、田島君の学年には、教育・心理学専攻の大学院生は他にいなかったですけど、1つ上の学年の人からのいろいろな刺激とか、TAや他の専攻の院生と関わるチャンスがあったと思うけど、横の繋がりとかはあったのかな。

田島:仏教学専攻の人とかは面白くて、何を言っても打ち返してくれる、自分のフィールドに持っていって話を展開するので、話が尽きない。聞いてるだけで面白いというような会話はたくさんできました。いい刺激って感じでしたね。

教育学部の後輩たちへのメッセージ

晴天の賀茂川で過ごす田島さん
晴天の賀茂川で過ごす田島さん

田島:今、自分が困っていることは「分からないことが分からない」っていう状況ですね。そもそも、社会人も教員も1年目だし、何も経験してないから当たり前だとは思うんですけど、それを恥ずかしく思ってしまう自分もいます。力になりたいから、そこで葛藤というかちょっとしんどい思いをすることはあります。

それでも、パッと横を見た時に同じ職場の先生たちがいて、「これ困ってるんやけど」とか「実はそれ自分も困ってたわ、気づいてなかったけど」っていうような横の繋がりというか、同じ職場の仲間たちと繋がることで、ちょっとずつ安心できる働きやすい環境を作れると思うんです。忙しさに負けて、スルーしてしまうこともたくさんあるんだけれど、人に自分の気持ちを伝えようとすることは大切にしたい。横のつながりが重要だと思います。

あとは、たまに関口先生のところに行って話を聞いてもらったりだとか。悩みを聞いてもらって、アドバイスをもらっています。自分だけではどうしようもないことでも、聞いてもらったり、周りからかけてもらう言葉でいろいろな気づきがあるので、これからも出会って話すってことは大事にしていきたいですね。

最後に一言、大学院って本当に良いと思いますよ!
 

PROFILEプロフィール

  • 田島 冬夢(Tajima Toumu)

    大学院 修士課程 文学研究科 教育・心理学専攻

    大谷大学文学部教育・心理学科卒業(2019年3月)
    大学院修士課程文学研究科教育・心理学専攻修了(2021年3月)
    大阪府枚方市立小学校勤務(市費講師/2021年4月~現在)

  • インタビュアー/関口 敏美 教授

    大学院 人文学研究科 教育・心理学専攻