文芸奨励賞 受賞作品

2023年度文芸奨励賞 受賞作品/テーマ「あるべき社会、あるべき自分」

挨拶

大谷大学教育後援会会長 鷹橋 賢淳

 2006年度に創設された大谷大学教育後援会文芸奨励賞は、在学生を対象に「言葉による表現意欲を奨励すること」を目的に継続されてきました。「表現」にはさまざまな形がありますが、「言葉」による表現の奨励に大学の伝統を感じさせていただいております。今年度は、「あるべき社会、あるべき自分」をテーマに、159編の応募がありました。
 なかなか難しいテーマだったのではないでしょうか。私自身も、この役割をいただいてから、応募する側を想定してみるのですが、締め切りがあるので漠然と考え続けているわけにもいきませんし、五十文字の制限とともに、なにより文芸的表現であることが求められます。さらに、「社会」「自分」ということだけでなく、「あるべき」ということが気になってきてまとまりませんでした。
 ただ、素通りしている日常に目を向け、社会的な課題を見つめ直す機会にもなって、文芸奨励賞の目的は、この「問い、続ける。」応募期間の大切さであることも実感できました。
 この時代に、作品は“手書き”で応募というスタイルもいいと思っています。応募スペースに作品ごとに異なる配置で記された大小太細さまざまな文字から、ペンを持つ手をたどるように、一人ひとりの思いに触れさせていただきました。
 今後も、この文芸奨励賞が、在学生一人ひとりにとって「問い、続ける。」機会として伝統されていくことを心から願っています。
 受賞されたみなさま、おめでとうございました。

講評

大谷大学学生部長 藤枝 真

 今年度の文芸奨励賞のテーマ「あるべき社会、あるべき自分」は、大学ウェブサイト内にある“Be Real Otani”のコーナーの冒頭に記された次の文章から採用されました。

「目の前に広がる『現実』と、その中に隠れてある『真理』—。『Real』という言葉には、二つの意味が込められています。現実にしっかりと目を向けて、あるべき社会、あるべき自分を求める。『Be Real』という言葉は、大谷大学が求める学びの姿勢であり、この先、社会へ一歩踏み出していく学生の皆さんの背中を押すメッセージでもあります。」

 今回は159作品の応募があり、その中から選ばれた最優秀作品は、テーマ中の「あるべき」という言葉がもつ規範的な意味そのものを問い直すことを意図したものでした。理想というものは、ややもすると既成の価値観によって安易に設定されてしまうような危うさを持っています。そして、そういう理想こそが自分や社会の「理想」だとする思い込みから逃れることは実は簡単なことではありません。
 社会にとってのRealと自分にとってのRealを一から問うていうことは、見かけよりも実際には難しいプロセスでありますが、そのことこそが大学での学びの本質であると言えるでしょう。「常識」とされることを問い直し、多くの人が同調している事柄の真偽を根本から確かめること、その上に「あるべき社会、あるべき自分」の理想が形成されるのです。 

2023年度 受賞作品 【敬称略】

最優秀賞

齋藤 優和【教育学部 教育学科 第2学年】

 「あるべき」はない。
 あなたらしく生きよう。
 私も私らしく生きるんだ。
 「あるべき」社会に飲み込まれるな。

優秀賞

相馬 直人【文学部 真宗学科 第4学年】

 「他者のものさし」によってつくられた私は
 心の奥でこうありたいと思っている私なのだろうか。

小野原 亜美【教育学部 教育学科 第4学年】

 だれもが美味しいものを食べて
 にっこり笑う社会のため
 いま、私は動く
 そして、子どもたちへ未来をつなぐ

佳作

間野 岳雄【博士後期課程 仏教学専攻 第2学年】

 不完全の美しさを
 そのままに愛すること

鍵谷 樹【文学部 文学科 第4学年】

 「あるべき自分」を
 彫り上げるのは
 設計図ではなく、
 鑿を一打ちする
 勇気である。

安武 信【社会学部 現代社会学科 第3学年】

 すれちがう船に手をふる海原で
 もう会えなくても でもお元気で

迫田 菜々子【文学部 仏教学科 第2学年】

 前じゃなくてもいいから、みんながどこかを見据えて生きる
 私はその中の誰かが見つめる光であるように生きる

松川 紡【教育学部 教育学科 第2学年】

 一人ひとりに
 ほっとできる
 弱音を吐ける
 明日も頑張ろうと思える
 そんな「居場所」のある社会

藤井 求道【文学部 真宗学科 第1学年】

    朝起きて、大学に行って、家に帰って寝る。
 ただの普通の日常。
 普通の日常が明日も続く……。

源川 秀弥【文学部 真宗学科 第1学年】

 1人が好きな人はいる。
 だが、人は1人では生きられない。
 「尊重」と「共助」こそ、あるべき社会と自分。

岡田 遊快【文学部 文学科 第1学年】

 「こうであるべき」
 だけじゃなく
 「それもアリかな」
 そういう社会と自分で
 「あるべき」
 だと思う。

柿田 日向子【文学部 文学科 第1学年】

 今日もあの子が花の水を変えてる。
 次の日も、また次の日も。

川原 心花【文学部 文学科 第1学年】

 あるべき自分とはなにか。
 生きづらい世の中は
 私が変われば変わるのだろうか。
 今日もこの社会を生きていく。

管井 海七【文学部 文学科 第1学年】

 前を向かず、横を向かず、
 下を向いて歩く人が増えた。
 側にいてくれる存在を忘れてないか。

髙 沙綾【文学部 文学科 第1学年】

 ネットでヘルプマークについて見てから外でも
 見かけるようになった。
 見ていなかったものが見えた気がした。

水口 皇英【国際学部 国際文化学科 第1学年】

 生きたくなる社会
 死にたくない自分