2008/08/29
教育・心理学科開設イベント
「モンスターペアレントの原因と解決法」を考えるシンポジウム
教育現場が抱える問題と
これからの教員像を徹底討論
主 催 | 関西テレビ放送 |
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共 催 | 大谷大学 |
協 力 | 朝日新聞社広告局 |
後 援 | 京都府教育委員会・京都市教育委員会 |
大谷大学では、来年4月、教育・心理学科を開設いたします。これを記念して「モンスターペアレントの原因と解決法」を考えるシンポジウムを開催いたしました。大谷大学・岩渕信明准教授ほか、この夏、話題を集めた関西テレビのドラマ『モンスターペアレント』のプロデューサー・吉條英希氏、朝日新聞社社会グループ・教育班キャップで『ルポ学校』を担当する大出公二氏がそれぞれの意見を率直に語り合いました。そのダイジェストをお届けします。
【モンスターペアレントとは】
学校に対して理不尽な要求を繰り返し、正常な学校運営を妨げる保護者を意味する和製英語。正当な要求や苦情を訴える保護者は含まれない。
【シンポジウム 出席者一覧/学長挨拶】
子どもが納得しても親が納得しない
毛利
まずは岩渕先生、モンスターペアレントがいつごろから現れ、その原因として考えられることを教えて下さい。
岩渕
10年ほど前からでしょうか。それ以前は近所の井戸端会議などで話を聞いてもらう機会がありましたが、今はそういう近所付き合いが減ったぶん、ダイレクトに学校へ持ち込まれてしまうんですね。
毛利
そういった社会環境の変化も影響しているんですね。具体的にはどんな要望が多いのですか?
岩渕
たとえば子ども同士がケンカをして「それに対する先生の処理の仕方が悪い。だから、うちの子が明日学校に行きたくないと言っている」などですね。たとえ子どもは納得していても、親が納得しないとだめなんです。同じく、学芸会で自分の子が主役になれなかったりすると、どんな方法で役割を決めたのかその経緯を諄々(じゅんじゅん)と説明しなくては納得してもらえないこともあります。
吉條
そういう話を聞くたびテレビの仕事をしている私からすると、主役を陰で支える照明など裏方の仕事も大事なんだよ、ということを知ってほしいと思いますね。
岩渕
役割に優劣や上下をつけてしまっているんですね。それが、いわゆる「勝ち組と負け組」という思考にもつながっているのだと思います。
吉條
「自分の子を主役にしてほしい」をはじめ、「朝、先生が子どもを起こして」「体操服は学校で洗って」など、親のモラルの低下による要望も取材の中で数多く耳にしました。こうした理不尽な要望を言う親が自分と同世代というのが、また何ともやるせない気持ちです。
大出
昔は、教師といえば「聖職」と敬われたものですが、今やサービス業化していると感じますね。実際、親を「お客さま」ととらえ、教師は「サービス従事者」という認識でいるという先生にも出会いました。だから「お客さま」から何か文句を言われると、すぐに謝ってしまう。本来、親も教師も対等の立場であるはずなのですが。
一人で抱え込まず組織で知恵を出しあう
毛利
大出さんが担当された連載記事「ルポ学校」では、子どもを交通事故で亡くした保護者からの執拗(しつよう)なクレームを苦に、自殺してしまった校長先生の話がありましたが、取材中どんな思いを抱きましたか。
大出
もし自分が校長だったら、どうしていただろうと考えてみても、答えは見つかりませんでした。一方、その保護者の異常ともいえる言動について精神科医に話を聞いたところ、遺族感情としては珍しくないことだと。とはいえ、こうした問題が起きた場合、一人の先生ではなく職場全体で支えるべきだと思いますね。
岩渕
まさにその通りで、みんなで相談し、知恵を出すべきなんです。そうすることで解決の糸口も見つかるかもしれない。にもかかわらず、一人で抱え込んでしまうのは、皆さんが良い意味でまじめなんですね。だから追い込まれてしまう。もちろん周囲の先生方も、担任一人の責任と考えるのではなく、個人を支援する仕組みを作っていくことも大切です。ドラマ「モンスターペアレント」の中でも、先生が生徒から暴力を受けて警察に被害届を出すかどうかという問題がありましたよね。もし、その生徒が日頃からそういう態度をとっているなら、事前に警察などの関係機関と連携して、協力や支援を受けることだってできるのですから。
吉條
実際は生徒のことを考え、届けを出すことを躊躇(ちゅうちょ)するケースが多いようです。
岩渕
ケースバイケースとはいえ、それでは教師からすると「学校は守ってくれない」と仕事に対する士気にも影響をおよぼします。
大出
都合の悪いことは隠したい。だから、マスコミに対する警戒心も非常に強いですね。もちろん我々マスコミ側も信頼関係を築く努力をすべきではありますが。もし学校で何か問題が起きているなら、まず地域や保護者にそれを教えたらいい。それを必要以上に隠すところに学校と一般社会の溝を感じますね。
岩渕
何か起きた後、説明会を開くと「もっと早くに教えてくれたら、何か私たちでサポートできたかもしれないのに」という声が保護者から決まって上がってきます。いずれにせよ、これからの学校運営は良いことも悪いこともオープンにしていくべき。そうしないと健全な教育がしづらい時代になってきたと感じますね。
学校は「共に生きる」ことを学ぶ場である
吉條
情報公開のほか、心療内科や心理カウンセラーなど、専門家や取りまとめ役のできる外部の存在も必要かなと思いますね。こうしたことも含め、私の手がけたドラマが、子どもたちが家庭の次に長時間過ごす「学校」について、考えていただく機会になればと願っています。
大出
私自身、学校が置かれている状況について理解できていませんでした。実際に取材をしてみて、本当に理不尽なことが起きていることに驚きました。こうした学校の問題を地域の人にも関心を持ってもらえればと思っています。
岩渕
モンスターペアレントの問題は「子どものために」というのが出発点であるにもかかわらず、悲しい結末を招いているのが非常に残念です。子どもたちからすれば先生と親が仲良くしてほしいし、大人たちがどう対応するか、その背中をちゃんと見ています。そんな子どもたちの気持ちに大人が気づいてあげることが大切です。また、昨今は学力テストなど「数値で見る学力」の偏重傾向がますます強まっています。しかしユネスコも提唱しているとおり学校とは「知ること」「なすこと」、さらに「共に生きること」「人として生きること」を学ぶ場です。教員養成のための大学教育においても、人と人との豊かなつながりを構築できる「コミュニケーションの力をつける教育」に重点を置くことが大切であると思います。