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きょうのことば

きょうのことば - [2016年12月]

私の歩み続ける世界のうちで、私は倦むことなく自己を創造していく。

「私の歩み続ける世界のうちで、私は倦むことなく自己を創造していく。」
フランツ・ファノン(『黒い皮膚・白い仮面』 みすず書房 247頁)

 フランツ・ファノン(1925-1961)は仏領マルティニック島に黒い皮膚のマルティニック人として生まれました。彼は精神科医であり、アルジェリア戦争に身を投じた第三世界の理論家です。ファノンの第一作である『黒い皮膚・白い仮面』は、一九五二年春、彼が二七歳の時に刊行されました。学問的言説と見えるもののうちになまなましい感情が吐露された、このきわめて特殊なテクストで、ファノンはアンティル諸島の黒人を例として、黒い皮膚をもっているという意識がもたらす歪み、病をえぐり出しました。彼によれば、黒人の神経症は、小さい頃から絵本、童謡、遊戯をとおして白人に自分を同一化させ、白人だと考える<白い意識>と大人になるにつれて発見を強いられる<黒い皮膚>との葛藤から生じます。彼は人間の疎外を、皮膚の色という身体の次元でまず捉え、黒い皮膚の人間を彼自身から解放しようとしました。

  ファノンは、意識が皮膚の色に囚われの状態になること、白か黒かのマニ教的世界観に基づいて考えたり行動したりすることのうちに人間の疎外を見ました。黒人が抱く劣等コンプレックスは、白人を憎みつつ、白人になりたい、白人に近づきたいと願う矛盾した感情から成り立っています。一方で、黒い皮膚の持ち主としてのアイデンティティに、ひいては輝ける黒人文明の神話に傾き過ぎることも、このコンプレックスの裏返しだというのでした。彼は、人間の行動はそのような外部からの視線や価値観などへの反応としてではなく、主体的なものであるべきだと考えたのです。
 
  しかし、だからといって、ファノンがコンプレックスを破壊するための処方をもち合わせていたわけではありません。彼は、言葉をとおして、人々の意識の明晰さに訴えようとしました。真正な飛躍は実存のなかに発明を導入することだと絶えず想起せよ、とファノンはいいます。人間が世界の理想的なあり様を創造することができるのは、自己回復と自己検討の不断の努力によってであるのです。歴史的所与を乗り越えて、他者による、また道具による支配や奴隷化を止めることができるか。疎外から解放され、優越感も劣等感も忘れてみることは可能か。ファノンは共生の原理のもとに個人の自発性が発揮される社会を夢見ました。そして、その実現のためには、もっと単純に、他者に触れ、他者を感じ、自らに他者を啓示しようと試みるべきだと唱えました。自己の創造・再創造の契機は他者との開かれた関係から生ずるのです。

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