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今という時間

今という時間 - [226]

「寮母さんの手づくり料理」
一色 順心(いっしきじゅんしん)

 私が勤務する大学の寮長に就任し、女子学生寮に住むようになって、1年半が経つ。大学の寮は、単なる寄宿舎ではない。それは、学習の場であり人材育成の場であると考えている。
 寮には、キャリア14年の寮母さんがいる。寮母の主な仕事は、食材を調達し、日曜日以外の毎朝毎晩、食事を調理することである。寮生たちは、当番制で厨房に入り、寮母さんを手伝い、時には料理の手ほどきも受ける。
 寮の食事は、おかずの品数も少ないかといえば、決してそうではない。食材は豊富で、料理のメニューも多彩だ。在寮が1年に限られているため、毎年、寮生たちの好みは変化する。寮母さんは、それをすぐ察知し、料理の献立や味付けを変えることができる。
 私のイメージでは、「揚げ出し豆腐」は、豆腐店に並ぶ出来合いのものであった。ところが、寮で出されるそれは、豆腐に片栗粉を付け天ぷら鍋で揚げてつくるという。他にも焼肉用のタレも市販品を使わず、自前で調合するし、サラダ用の千切りキャベツは、自分の包丁で、丹念に切るという。
 現代では、美味しく仕上がる調味料や、面倒な調理を必要としない食品が人気を呼んでいる。寮母さんのように、なるべく原材料から出発して調理をすることは、今という時代には、難しくなっているのかもしれない。
 であればこそ、手抜きのない調理作業に接して食事をする寮生にとって、寮は、自ずから食べること、調理することの意味を学ぶ場にもなっているのである。

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