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今という時間

今という時間 - [222]

「地獄をめぐって」
浦山 あゆみ(うらやま あゆみ)

 「地獄を見た」と言えば穏やかではないが、その地獄へ遊びに行ってきた。九州は別府で地獄めぐりをしたのである。実に楽しい地獄であった。血の池地獄・坊主地獄・竜巻地獄など様々あって見飽きることはなかったし、自然界の驚異を目にして感動もした。蒸しプリンは美味しかったし、おまんじゅうもほどよい甘さであった。視覚も味覚も満足し、地獄で極楽気分を味わったわけである。
 だが、楽しめた理由は何よりもまず、それぞれの地獄には柵が設けてあり、熱湯沸き立つ地獄の中へ落ちなかったからである。落ちれば恐らく熱くて苦しいであろうと想像を馳せ、恐怖を感じつつも楽しむことができたのは、ひとえに柵のおかげなのである。
 どうやら人間はこのような恐怖を好む傾向にあるようだ。お化け屋敷やホラー映画、地獄絵などは全て人間が作り出した架空の恐怖であるが、現実世界とを隔てるいわば心理的な柵があり、絶対的な安全が保証されているからこそ楽しめるものである。柵の外から恐怖を覗くことによって我が身の安全を確認し、その恐怖が現実のものではない喜びに浸る、といった意味合いがあるのかもしれない。
 現在では技術が進み架空の世界と現実との間にある柵が認識されにくくなっている。その結果、メディアを通して現実の恐怖をあたかも架空の如く楽しむ人々もあらわれた。だが、この認識されにくい柵が我々の心の中にあることを考え直すべきではないだろうか。

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