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今という時間

今という時間 - [197]

「よいはわるいで、わるいはよい」
芦津 かおり(あしづ かおり)

 数ヶ月も前のこと、話題の映画『ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔』を観た。J.R.R.トールキンの原作にある善と悪の対立構図がうまく映画化されている。「善」の体現者エルフと「悪」の権化・冥王サウロンを両極とする軸のうえに、人間、ホビット、ドウォーフなどさまざまな登場人物(生物)が配置される。
 時期が時期だけに、映画のなかの善悪の戦いを、アメリカ対イラク独裁政権の戦争にだぶらせてしまった。もっとも、トールキンが本作を執筆しはじめたのが、ファシズムやスターリニズムの台頭しつつあった時期に重なることを考えれば、あながち的外れな見方でもなさそうだが。
 しかしながら、現実世界の「善」と「悪」はこの映画ほど簡単に二元化されるものではない。フセインの銅像を壊すイラク人の晴れやかな笑顔を見るとき、家を奪われ瓦礫の山にたちつくす人々の姿を見るとき、我々の思いは揺れうごく。いったい何が善で、誰が正しいのか。爆撃で両腕を失った少年の哀しげな目は、そんな判断をはるかに超えた空(くう)を見つめる。
 「よいはわるいで、わるいはよい」。悲劇『マクベス』の魔女たちは歌う。シェイクスピアは、善悪・真偽・美醜がたえず交叉する多面的な世界と人間を描きつづけた。
 現実世界も、この映画のように「白黒」がはっきりつけば楽ではあろう。しかし、そうはいかないのが人間の真実でもある。映画館を後にしつつ思った。

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