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今という時間

今という時間 - [181]

「子供たちの問いかけ」
村瀬 順子(むらせ よりこ)

 ある学習塾のテレビコマーシャルで子供たちがこんな疑問をぶつけていた。
 「どうして勉強しなくちゃいけないんですか」「勉強しないとどうなるんですか」「好きなことだけしていちゃいけないんですか」
 子供たちの素朴な問いに大人はどう答えられるのか。勉強は自己の可能性を広げ、一人前の社会人になるために必要という答えはいかにももっともであるが、そこには学歴社会の中で困らないためにという本音が潜んでいるのも事実である。そうした自己矛盾を抑え込んで、この宣伝コピーのように、さっさと塾に行って勉強しなさいと言う以外にないのかもしれない。
 明治の文豪、夏目漱石にとって学問の目的は何よりも人間教育にあった。「学問は知識を増す丈の道具ではない。性(しょう)を矯(た)めて真の大丈夫になるのが大主眼である。真の大丈夫とは自分の事ばかり考えないで人の為世の為に働くという大な志のある人をいふ」と手紙に書いている。自分のために生きることが当然と誰もが考えがちな今日の社会に欠けているのは、人のために役立つ立派な人間を育てるという理想ではないだろうか。
 社会全体が豊かさに酔い、目先の安逸を求める中で、どう生きるべきかという生き方の理想を大人は子供たちに示すことができない。「勉強が必要なのは立派な人間になるためだ」と子供たちに胸を張って言えないところに今日の社会が抱える深刻な問題がある。

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