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今という時間

今という時間 - [164]

「ノブレス・オブリージュ」
村瀬 順子(むらせ よりこ)

 イギリスの小学校を見学したときのこと。6歳児のクラスで、一人の男子生徒が教室の中を案内してくれた。その話し振りと物腰は素晴しく、正に小さな紳士であった。最近、イギリスの大学を訪問した際、キャンパス内を案内してくれた大学生もまた礼儀正しい好青年であった。イギリスは紳士の国であると言われるが、このような経験をするたびに、今なお紳士の理想は健在であると感じる。
 紳士の定義は難しいが、単にマナーの良さを指すものではない。それはもともと一つの社会的身分であり、そこに誠実・勇気・礼儀正しさといった資質や紳士的教養が付け加えられていった。その中で最も特徴的な伝統は「ノブレス・オブリージュ」の精神である。これは「高貴な身分には義務が伴う」という意味で、社会の上層に位置することが単なる経済的豊かさを意味するのではなく、社会的義務の観念と結びついているところにイギリスらしさがある。それは今なお男女を問わず良識あるイギリス人の行動の規範となり、公共心や慈善精神として社会に広く浸透しているように思われる。
 紳士の理想とノブレス・オブリージュの精神は、今後もイギリスの若者たちに受け継がれ、振舞い方・生き方の指針を与えるものとなるだろう。一方、日本はどうだろうか。そうした指針が見出せないまま、個人の自由のみが追求され、責任や義務はどこかに置き去りにされ続けるのだろうか。

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