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今という時間

今という時間 - [141]

「無邪気な傲慢・満ちたりた欠如」
関口 敏美(せきぐち としみ)

 車内の高校生の会話。「シンゾーペースメーカーって何?」「電車のエンジンの心臓部で大切な物らしい。ケータイの電波でエンジントラブル起こすんやて」「ふーん、そうなんや…やっとわかった!」その時、彼女のケータイが鳴った。
 とんでもない“怪説”だが、どちらも冗談ぬきで大まじめだった。なぜ彼女は疑問をすぐに調べなかったのだろうか。面倒臭いから?どうもそれだけではないようだ。
 生まれた時からすべて満ち足りている彼らは、未知の世界に対して無関心である。戦争も飢饉もない。生活には困らない。欲しい物も大抵は与えられている。だから好奇心が欠如している。
 つまり彼らには必要がないのだ。満たされているからこそ、聴く必要も、見る必要も、注意を払う必要も、ない。自分の知っていることがすべてであり、知らないことはこの世に存在しないのだ。
 しかも自己の存在が即ち宇宙だから、傲慢にも彼らの意識からは他者が欠落してゆく。そのくせ自己が傷つくと、宇宙が傷つき崩壊するかの如くパニックに陥る。他者の不在は、傷つきやすい自己をますます希薄化・拡散化させ、自己と非自己の境界が溶解してしまう。 
 やがては自分の人生を織りなす主体、責任主体としての自己の喪失にも至りかねない。彼らの宇宙には、迷惑のかかる相手(他者)がそもそも存在しないのだから。
 道理で、“怪説”に納得しても平気でケータイが使えるわけだ。

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