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今という時間

今という時間 - [054]

「何を学んだの?」
鈴木 幹雄(すずき みきお)

 「先生、卒業論文のテーマ、どうしたらいいんでしょう。」この時期、こんな相談を持ち込む学生が多い。卒業に必修の卒業論文は提出が毎年1月10日。この6月末にはその題目をあらかじめ提出しなくてはならない。
 少し古風なこの大学では、原稿用紙50枚の卒業論文が今だに必修である。それが学生たちにとってどんなに大仕事か、経験者は語るのである。はやくテーマを決めて、準備を始めなさい、と言っても、いわゆる就職活動で会社訪問に駆け回っている学生には、馬耳東風でしかない。
 実のところ、卒論のむずかしさは、書くことよりもテーマを自分で決めるところにある。大学によっては、殊に理工科系の場合、教師がテーマを与えることもあるようだが、これでは研究技術は身についても、学生は自分にとっての学問の意味を反省し、自覚するせっかくの機会を失うことになるだろう。文学部には、「自分がほんとうにやりたいことは何か、それを探しに大学にきた」という学生が多い。
  彼らは自分がほんとうに学びたいことを探しながら、「私探し」をしている。論文の課題を自分で見つけ出した学生は、実は3年かかって自分を見つけたのだ。それは大人の証明でもある。
  まだ大人にならない学生は、訪問先の会社で「大学で何を勉強してきたの」ときかれて絶句する。なぜ絶句しなければならなかったのか早く気付いてほしいものである。

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