「この学校では俺らが先輩やぞ。でかい顔すんなや!」
大学を卒業して大阪市の中学校に常勤講師として着任したとき、扇田は生徒からきつい言葉の洗礼を受けた。学生時代、教育実習で出向いた中学校では、「せんせい、せんせい!」と慕われていた。このギャップ。だが、扇田はあわてなかった。中学生ってそんなもんでしょう、と。
「そもそも不安定な年頃だし、環境の影響も受けやすい。でも、だからこそぐんぐん成長していける年代でもある。そのときに、彼らとつきあっていけるちゃんとした“大人”がいることが大切なんです」
扇田がそういう“大人”になろうと志したのは、小学生の頃から続けてきたサッカーを通してのこと。とりわけ大学受験直前、気晴らしをかねて少年サッカーチームの指導をしていたときのことだ。
「できなかったプレーができるようになったときの子どもの喜びが、そのまんまこちらに伝わってくる。挨拶とかボールの片付けとか、やらされてやっていたのが、自分たちで進んでやるようになってくる。そういう過程につきあっていけるのが教師という仕事なんだと思いました」
先生になるにはどうすればいいですか?2013
(9) 扇田 祐也さん
サッカーは子どもを大人にし、大人を紳士にする。サッカーの故郷イングランドの有名な格言である。そういうわけだから、大谷大学に入学したあとも、扇田の優先順位の第一はサッカー部の活動にあった。教員採用試験が簡単なものではないことは知っていたが、そもそも教職をめざすことの根底にあるサッカーをないがしろにすることはできなかった。いくらなんでもこのままではまずいのではないか、と教職支援センターを初めて訪れたのは3年生の終わりころだった。
「開口一番に言われたのは、部活辞めた方がいいよ、ただし一般論だけどね、ということでした。僕がどういう教師になりたいか、いろいろ話し合ったら、それなら今はサッカーを頑張れ、万が一、1年目が無理でも、卒業後も私たちがサポートするから、と。ほんとに親身になって話してくれました」
それまでは「なんだかお堅い感じがして」教職支援センターを敬遠していた扇田だったが、それからは頻繁に顔を出すようになった。1年目の試験に失敗してからもそれは続いた。
「講師登録の情報や勉強会の情報など、ずいぶん助かりました。なんにも用事がなくても、センターに行ってるだけで落ち着くし、モチベーションが上がる。センターを活用するって、こういうことだったのか、と」
卒業後、扇田は講師をしながら職員室で勉強を続けた。職員室には先輩の教員がいて、ここでもなにかとアドバイスをしてくれた。もともと“教えたがり”の人たちが集まっているのが、職員室という場所なのだ。そしてもちろん扇田自身も熱心な“教えたがり”なので、教職支援センターに帰ったときには、情報をもらうだけではなく、現場で経験したことを後輩たちのために伝えようとしてきた。
半年後、扇田は大阪市の教員採用試験にパスし、中学校の国語教員として名簿に載った。当然、指導者としてサッカーにかかわっていくつもりである。サッカー少年は大人に、そして“紳士”になろうとしている。
大切にしているサッカーの指導本
サッカーの指導に役立てているのはもちろん、自分自身のモチベーションを維持するためのカンフル剤にも。





