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今という時間

今という時間 - [203]

「バージョンアップ」
芦津 かおり(あしづ かおり)

 あまりに便利なネット社会。研究文献の検索も、コピーの申し込みも、イギリスの劇場チケット予約も、それこそ「クリック一つで」可能である。依存しすぎていたせいか、先日われながらあきれるほど奇妙な行動をとった。
 私事になるが、数年前に父を亡くした。いい年をして情けないが、問題につきあたった時にはいまだに、父なら何と言うだろうかと尋ねたくなる。先日も思い悩んでいた時、無意識にではあるが、なんと父の意見を検索にかけようとしたのだ。もちろん、それを可能にするソフトもキーワードも存在するはずはない。ふと我にかえって自らの行動に驚愕したものだ。
 コンピュータやインターネットはあくまでも道具であり手段である。いくらバージョンアップを重ねても、私たちのかわりに考えたり、論文を書いたり、ましてや死者との交流を可能にしてくれるわけはない。私たちが自分の頭で思考し、書物を読み、議論し、想像力や五感をはたらかせる以外には、人生の真理や先人の思索に到達する道はないのである。しかし、めくるめくテクノロジーに幻惑された私たちは、この自明の事実を忘れがちである。
 「人間は自然の傑作だ。気高い理性と無限の機能・・・」。こうハムレットが賛美する人間とは、コンピュータなど比較にならぬほどに精妙で、可能性にみちている。私たちはまず、私たち自身を磨き、開発し、「バージョンアップ」を図るべきではなかろうか。

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