今という時間 - [180]
「本の絆(きずな)」
村山 保史(むらやま やすし)
学生に本を貸すかどうか迷っている。貸したが最後、ちっとも返さないからだ。学生の卒業とともに全国に旅立った本も数冊。絶版のものもあり、泣きたくなる。同僚のなかには、貸し出しを止めてしまった者もいるらしい。
貸し出し禁止にするのは簡単なことだ。だが、なぜ返さないのだろうか? 私の見るところ、本を返さない学生にはいくつかのパターンがある。
うっかり型。借りていることをすぐ忘れる、わかりやすいタイプ。一度催促をすれば、頭をかきながら返しにくる。
不躾(ぶしつけ)型。借りたものは返すというルールを今ひとつ理解していないタイプ。催促を平気で聞き流すことができる。家庭ならぬ大学での躾が必要。
認知型。借りていることを知っており、借りたものは返すことも理解している。ルール違反におびえつつも、しぶとく返さないタイプ。最近ちらほら見かけるようになった。
このうち、認知型が悩みの種になる。読むために本はある。だがこのタイプには、読むより借りるためにある。借りることが許されるかどうか、借り続けることが許されるかどうかが重要なのだ。わがままを受け入れてくれる人との結びつきを確かめたいのであろう。迷惑な話だが、なぜか他人事とも思えない。
貸すかどうか。当分、結論は出せそうにない。