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今という時間

今という時間 - [153]

「ウランバートルの白タクで」
松川 節(まつかわ たかし)

 「昨日テレビに出てたね。」
 白タクの運転手が出しぬけに言う。ここ、モンゴル国の首都ウランバートルでは白タクが幅をきかせている。運賃はタクシーとほぼ同じだが、ヘタするとボラれるのでリスクは背負わねばならない。
 3週間に及ぶ日モ共同歴史調査を終えた我々は、古都カラコルムを始め各地で採った碑文の拓本を提示しながら、モンゴル国営テレビの取材を受けたところだった。
 「それにしても、あんたらが採った拓本にモンゴル文字やチベット文字があるのはわかるが、なんでアラビア文字まであるんだい?」
 モンゴル帝国は、13世紀に初めてユーラシアの東西を結び付けた。その首都カラコルムには各地から仏教・景教(キリスト教)・道教・イスラム教の指導者が集まり、帝国領内では、モンゴル皇帝の権威の拠り所たる「長生(とこしえ)の天」を崇拝していれば、宗教活動の自由を保障され、免税特権さえ与えられたのである。現在もカラコルム遺蹟に残るアラビア文字のペルシア語碑文は、当地に造られたイスラム修道場を記念したものであった。
 そうした貴重な世界的遺産が、今も雨ざらしになっている。一刻も早く正確に記録したうえで、保存事業をおこすべきではないか…
 話の途中で目的地に着いた。さぁ、料金は? 緊張する瞬間だ。
 「今日はいい話を聞いた。外国人がモンゴルの歴史を研究してくれてうれしいよ。」運転手は握手を求めただけだった。

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