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今という時間

今という時間 - [148]

「少女の定年」
番場 寛(ばんば ひろし)

 F.トリュフォーの映画の中で、中年の女性が男に、自分の顔を自嘲気味に語るとき、「時は残酷なものよ」とつぶやく。時の流れを否定し押し留めようと願う者の目には、残酷と映るのかもしれない。新入生や新任の先生方のはつらつとした姿を見ながら、人気絶頂の少女アイドルグループを退団した27歳の女性のことを思った。
 そのグループが、心理学の「ゲシュタルト」という概念、「全体は個の総和以上のものである」を具現していることに驚く。一人だけでいたらそれほど目立たないかもしれない10人が、そろって踊りながら歌うと一変する。髪の色や形、身長、表情や年齢の違いが際立ち、それぞれがお互いに照らし合う。可愛い娘が集まった魅力的な集団というより、全体の中でこそ、個人が輝くようなそんな人気絶頂の集団のリーダーだった女性は、後から加入した最大14歳という年齢差の若いメンバーに押し出されるかのように退団した。
 そのグループは若い生命力、愛くるしさ、無意識的に発揮している媚態など、少女の持つすべての表情が一箇所に空間化された集団であると同時に、少女と呼ばれる「時の雫」を集めたものでもある。
 それが分かったからこそ惜しまれながら、卒業と宣言し自らソロ活動へと歩みだした彼女は「時の残酷さ」に立ち向かわねばならない私たちの姿でもある。彼女がいつか一人でも成功し「嬉し涙ぽろり」と流す日を心待ちにしている。

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