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今という時間

今という時間 - [142]

「春待ちわびて、日を数える」
滝口直子(たきぐち なおこ)

 「パチンコにはまっていた日々を振り返ってみると、10年、瞬時に過ぎていった感じがする。でも止め続けるとなると、まだ1ヵ月なのか、まだ2ヵ月なのかという感じですよ」と、ギャンブル歴10数年のAさんは、ため息をつく。
 賭博を止めたいと決意して、ギャンブラーが回復の場に現われるのは、離婚、借金、失職などかなり手痛い経験を蒙ったからだ。賭博を止めたら、心静かに、落ち着いた生活が取り戻せるだろうと、本人は期待する。それに反して最初のうちは、イライラや落ち込みの日々である。ワクワクする興奮や刺激が突如消えうせ、白・黒モノトーンの世界、おまけに賭博という興奮剤(安定剤でもある)を使えなくなったため、知人や親戚の視線が、やたら刺す如きに感じられる。
 「止めても何もいいことがない!」とはいえ、止め続ければおのずと、賭博以外の興味もわいてくるし、白黒世界にもほんのりと色がついてくるものだ。
 賭博依存で苦しんでいる人の回復は、人生の生き直しのようである。賭博を止めた日を誕生日として、3ヵ月や6ヵ月などのバースデーをみんなで祝う。1歳の誕生日はことに、本人や家族にとっては嬉しいものだ。もっとも、途中で賭博をしたらまた振り出しに。今日一日、一日としない日を積み重ねるしかない。がんばれAさん、陽ざしはもう、春。

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