今という時間 - [129]
「王様の耳はロバの耳」
谷口 奈青理(たにぐち なおり)
「二人だけの秘密」のように、誰かと分けもつ秘密は時に甘美である。「何でも言える関係」は親密さの証しとされる。しかし一人で秘密を抱えつづけるのは、とても苦しいこともある。
親しい人にどうしても言えないことがあってそれが苦しいと訴える人がいる。秘密によっては聞かされた相手も苦しむことがある。相手が傷つき耐えられなくなることをかえりみずに、一人で秘密を持ちつづけるのがつらいからうちあけてラクになろうというのは、利己的な正直さである。
秘密には関係を変える力がある。秘密を共有することで結びつきが強まる場合もあるし、これまでの関係が壊れてしまう場合もある。秘密のもつ破壊力を知れば、相手のために秘密にしなければならないこともあるとわかるだろう。
だがもしも、うちあけた相手が傷つきながらも受け入れようと試み、ともに苦しみを分けもってくれたならば、それは新しい関係を作り出す力にもなりうるのではないだろうか。これはどちらにとっても大変に苦しいことである。しかし何でも打ち明けられる関係は、約束して始めるようなものではなく、傷つきながらつらさをのりこえる過程でできあがるのではないだろうか。
相手に秘密を持ちつづけるのも、関係が変わってしまう覚悟をもってうちあけるのも、どちらもつらいことである。どちらのつらさを選びとるのか。それは自分にしか決められない。