今という時間 - [105]
「Sink or swim.」
関口 敏美(せきぐち としみ)
“sink or swim”は「のるかそるか、一か八か」のことで、魔女判別 法からきたらしい。だが、初めて聞いたとき、泳ぎを知らない者を水に突き落として泳ぎを訓練する光景を連想してしまった。
ところで、大学は初心者を水に突き落としておきながら、それを意識せずにいるのかもしれない。新入生に専門用語をちりばめて講義をした大家がいたそうな。
なるほど、大学の学習は高校までの勉強とは違うことを協調する、専門分野の学術用語をきちんと教えるなどの対策はある。それを実践する教員もいる。だが、それですむほど簡単ではないだろう。
学生が日常使う言葉と各分野の専門用語はかけ離れている。彼らは専門用語の通 用する世界に到達しなければならない。しかも、そこに至るまでにはもう一段階を経る必要があるような気がする。
それは大学言葉とでも言うような、専門用語より広い、講義などで使われる言葉や言い回しを含む一種の業界用語の世界である。
学生の日常語の世界は話し言葉的だが、大学言葉は書き言葉的で、より論理性と厳密な言語使用を要求する。大学言葉の作法に馴染まなければ大学での学習はおぼつかない。専門用語などは夢の夢だ。
使ううちに馴染むものなのかもしれないが、その前にもっと楽しい誘惑に目を奪われかねない。大学が無自覚に教育にただ励むだけなら、一か八かより確立の悪い賭けになりそうな気がする。