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生活の中の仏教用語

生活の中の仏教用語 - [243]

曼珠沙華

「曼珠沙華」
沙加戸 弘(さかど ひろむ)(国文学 教授)

 秋に限らず、日本の山里を彩る花の中で、その花期の短さにもかかわらず、これほどの存在感と迫力を持つものはまずない。
 中国原産の宿根草、普通は赤色であるが野生種に白花もあり、近時は園芸店に「リコリス」の名で多くの品種がある。
 『法華経』の巻第一序品に、釈尊が多くの菩薩のために大乗の経を説かれた時、天は

蔓陀羅華・摩訶曼陀羅華・蔓殊沙華・摩訶蔓殊沙華
の四華を雨(ふ)らせて供養した、とある。
 「マンジュシャカ」は古代インドのサンスクリット語で「赤い」の意で、語義は未だ詳らかでないが、中国で音を写して字を宛て、中国に存在した花に比定したものと推定される。
 恐らくは仏教と相前後して、名と共に伝来したこの花の名を、先人が漢語のままに伝えたのは、多分日本の風土の中においた時感じられる一種の違和感によるものであろう。
 一般には秋の彼岸の花「ヒガンバナ」と呼ばれるが、花の時に葉を見ず、葉の時に花を見ないので、「ハミズ」、「ハナミズ」、あるいは鮮血を思わせるその色彩の故か「シビトバナ」等、日本の野草の中では最も異名の多い部類に属する。生活と共にあった花の証である。
 美しいものには、悲しい歴史があることが多い。曼珠沙華は山林原野にほとんど見られず、水田の畦に群生するが、これは飢饉への備えとして先人が植えたからである。
 「毒がある故触れてはならぬ」、「持って帰ると火事になる」、「死人が出る」と幼き者に言い聞かせて守り育てたと伝えられる。
 アルカロイド系のかなり強い毒を有することは事実であるが、この毒は水に晒すことによって容易に除去することができ、球根からは極めて良質の澱粉がとれる。
 曼珠沙華が救荒作物というのは意外である。しかし、自然の真っ只中に生きた先人達が最後のたよりとしたこの花の名が、天が釈尊に供養した花に由来する、ということならば中国伝来のこの花は、日本においてまことにふさわしい位置を得たというべきであろう。

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