国際コースを選択し、順調に英語の勉強を進めている佐々木君ですが、真宗学の授業は全部難しいと言います。なかなか自分の意見がまとめられないと嘆く佐々木君に、長年真宗学を学んできたConway先生は、真宗の勉強には時間がかかると理解を示します。その上で、さらに上を目指してほしいと、大学院や開教使の仕事についても紹介してくれます。卒業後はまずワーキングホリデーに行って世界を見ようと考えている佐々木君の未来は、限りなく広がっています。

07 教えを聞いて、向き合って考える

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佐々木:そう言えばこの間、オンラインで話したバークレー校の人が、英語で書かれた親鸞聖人の解説書がないって言ってたんですよ。それは誰も書かないんですか?
 
Conway:確かに、ほとんどないでしょうね。誰かが書かないといけなくて、僕も書こうとは思っているんですが、僕が考えているのは『教行心証』の解説書を書くことですからね……。西本願寺の先生方で何人かは、非常に概略的な浄土真宗の紹介の本を英語で書いていますが、まあほとんどないですね。仕事は多いですよ。英語で真宗の教えについて語ることができる人たちを巻き込んで表現していくっていうことを僕はしていきたいと思っていますし、若い人も巻き込んで力をつけてもらって一緒に伝えていくことをしたいと思っています。本当にやることは山ほどあります。……佐々木君、逃げたくなったね(笑)?
 
佐々木:いえ(笑)。ただ、疑問に思うことはたくさんあって。例えば、ケネス・タナカ先生のアメリカ仏教の本を読んだんですけど、浄土真宗は「行(ぎょう※)」を行わないじゃないですか。その「行」を行わない宗教というものを、海外の人にどう伝えたら理解してもらえるのかなと。
 
Conway:僕としては、聞法が真宗の「行」だっていうふうに考えますね。いろんな考え方はありますけど、生活する中で教えを聞いて、教えについてしっかり向き合って考えるっていうことが真宗の「行」であるわけですから、それを伝えて、聞法していきましょうって伝えていくのがいいんじゃないかと思いますね。
 
でも、いろんな考え方がありますね。お勤めをすることが「行」だとか、そのお勤めの前には、息を丁寧に深く吸って心を落ち着かせるべきだって言う人もいますし、僕の友人の中には、真宗の教えとそういう瞑想をセットで教えようとしている人もいます。でも僕は、それが大きなことだとはそんなに思わないんですね。やっぱり聞いて考えないとね。
毛穴仏法っていう言葉があるんですが、教えを聞きに行って、毛穴からその教えが入ってくる、その場にいることによって自分が感化されて育てられるってことも言われますので、思い出さなくてもちゃんと入っているっていうことはありますのでね。だから海外の方には、ちゃんと聞きましょうっていうことを伝えればいいと思うんですよ。そもそも救済のために私たちの「行」が必要だという発想そのものが問題で、それを克服するためには、生活の中での聞法しかないと思うんですよ。私たちは現在に不満を懐き、よりよい状況を作り出すために「行」が必要だと思いますが、教えを聞いていくしかそのような勘違いを超える道はないので、ある意味で私たちが「行」をしなければならないという発想の問題性を指摘するってことも大事じゃないかな。その発想の問題性を指摘することは、真宗の教えを海外で伝えていく上で極めて重要だと思います。行じている自分が偉いとか、行じている自分は何かいいことが得られるとか、そういう発想そのものが、そもそも方向が間違っているんですよね。今、自分がどれほど恵まれているかということに気付くことが幸せな将来を作るための「行」よりよっぽど大事なことです。
 
……なんだか説教になってしまいましたね。でも、南無阿弥陀仏というのは、間違った方向性を正しなさいってことですからね。まあ、またいろいろ話しましょう。いつでも声をかけてください。
 
佐々木:はい。Conway先生は一番しゃべりやすいので、ぜひまたお願いします。
(※行……悟りに至るための実践。仏教の伝統では、戒律を守り、禅定を修することによって、智慧が得られ、悟りに近づくことができるとされる。)

PROFILEプロフィール

  • マイケル コンウェイ

    文学部 真宗学科 准教授



    1976年アメリカ合衆国イリノイ州生まれ。1997年ノースウェスタン大学卒業(歴史学専攻)。2003年大谷大学大学院修士課程(真宗学専攻)入学。2005年大谷大学大学院修士課程修了。2006年大谷大学大学院博士後期課程(真宗学専攻)入学。2009年大谷大学大学院博士後期課程満期退学。2009年大谷大学文学部任期制助教着任(2011年まで)。2011年博士号取得、東方仏教徒協会(The Eastern Buddhist Society)編集者着任(2015年まで)。現在、大谷大学文学部准教授(真宗学)。
    親鸞の思想の背景を知るために、中国浄土教の祖師、とりわけ隋・唐代に活躍した道綽を中心に研究を進めてきた。また、親鸞の思想が現代にまでどのように展開されてきたかということを視野に入れ、曽我量深、金子大栄、安田理深に代表される真宗大谷派の近代教学者の研究にも取り組んできた。更に近年では真宗の教義と教学をいかに英語で表現すべきかという問題について考えており、鈴木大拙が英訳された『教行信証』を始めとして、親鸞の書物の英訳を比較し考察している。



  • 国際コースを選択し、カナダでのホームステイも経験した。国外に出て全く違う文化や生活を見たり体験したことで、これまでの自分の環境がとても恵まれていたのだと気づかされた。
    日本に戻ってからも海外の人とチャットができるアプリを活用したり、スピーキングの練習をしたりと、順調に英語の勉強を進めている。卒業後は、まずワーキングホリデーに行ってもっと世界を見ようと考えている。