好きなことに全力で向き合う松田さんは、今は韓国に魅力を感じています。文化から始まった興味も、歴史や政治にまで関心が広がるようになりました。留学を前に自分を奮い立たせて、できる限りの準備をしていこうと考えています。応援してくれる友達や先輩に支えられ、留学経験者である先生の「自分で自分を押してやることが大事」というアドバイスのもと、いろんなものを見て来ようと張り切っています。

06 ‏恐れずに、周りの空気も読まずに飛び込む

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松田:先生の研究は、どんなことですか?
 
喜多:近代から現代にかけての朝鮮半島の美術です。近代っていうのは、欧米が学術体系を作り上げて、それをアジアがどう利用していったかっていう考え方がもともと強いんですが、朝鮮の場合は、欧化政策だけで美術制度を創り上げたわけではないんですよ。美術って価値観や評価の問題と強く結びついているんですが、日本はアジアの国々を植民地にしてたので、日本の物差しが不動のものだと思いがちなんだけど、価値観はそれぞれの国で違うんですね。
 
日本の価値観で見ると、植民地であった朝鮮半島の美術はしょうもないって言われてしまうことがあるんだけど、実際のところ日本からの視点では朝鮮半島の美術は分析しづらいんですね。この絵がいい、と判断する材料は、文化によって違うので。日本の価値基準を絶対視するのも一つの植民史観なんです。でも、ある文化圏で作られた作品はもともと、その文化圏における必要性があって作られているものなんです。解放後の話でいうと、朝鮮民主主義人民共和国の作品などは社会主義思想が根本にあるので、単純に西洋近代の価値基準では計れないじゃないですか。そういう美術制度の問題と、朝鮮半島の美術を合わせて考えています。
 
松田:面白いですね。北と南とでも違いそうですね。
 
喜多:そうなんですよ!たとえば彩色人物画って言って、色が付けられている人物画の評価が、北と南で全く違うんですよ。大韓民国では、彩色人物画は日本の影響だからなくさないとアカンっていう方向で行くんですけど、朝鮮民主主義人民共和国では、彩色人物画はあまり描かれてこなかったから、これから頑張るぞ、みたいな感じで進むんです。なので、同じ民族なんだけど、そのときの論理で力を入れる方向が違ったりしていくんです。そういうのがすごく面白いなと思います。
 
松田:先生のゼミではそういう勉強をするんですか?
 
喜多:私のゼミ生の多くは韓国の文化に関心があって入ってくるんですけど、3年生から4年生にかけて、関心事がすごく変化するんですね。それこそ韓国の民主化闘争について知りたいっていう学生も出てきますし、歴史的なことに関心がある場合は植民地の話も出てくるし。私の専門の美術については誰もやってくれないけど(笑)、授業で勉強したことをもっと知りたいって言って、みんなの興味の幅がどんどん広がっていくのが見ていて楽しみでもあります。
 
松田:先生が韓国に興味を持ったきっかけは何ですか?
 
喜多:私は学生時代に国際交流サークルに入っていて、その関係で最初に行った外国が韓国なんですね。さほど韓国に興味もない状態で、外国に行ってみたいからというだけで応募した外務省の韓国派遣のプログラムに参加したんです。そうしたらすごく面白くて。その時はハングルもなにも言葉は全然わからなかったんだけど、一緒に行った人たちは、外国語大学の人とか朝鮮語学科の人たちが多かったんです。みんなして「ハングルは簡単だからぜひ読めるようになれ」って言うもんだから、それで帰ってから文字を覚えて、韓国に関するものはテレビも書物も全部見て、って感じで。結局、大学院進学後に留学することになりました。
 
松田:留学して、どうでしたか?
 
喜多:当時は、「韓国がこんなに面白い国だってことをなんでみんな知らないんだろう」って思ってました。でも、韓国にもいろんな社会問題があるし、日本の植民地支配の傷あとや在日の問題からも目がはなせなくなりました。それに、みんな南のことしか見ないけど、北もあるし、っていろいろ考えるようになって。朝鮮民主主義人民共和国にも何回か訪問しましたが、まわりからは「大丈夫?」みたいな言い方をされたりしました(笑)。でも行って本当に良かったです。自分が見たり感じたりしたことが基本になるのでね。それに伴った勉強をすることが大事だと思うし、体験もしないで決めるのは、自分の可能性を狭めるなって思いました。
 
気になるところに飛び込むことで全く違う道が開けるので、自分で自分の背中を押してやらないといけないかなって思います。恐れずに、周りの空気も読まずに。今は韓国を好きっていう人が多いけど、好きで終わってしまうと韓国文化の消費でしかないので、大学生であれば、もっといろんなことを勉強していってくれたらなと思います。松田さんも、ソフトテニスも留学も、全部がつながってまた新しい松田さんになると思います。
 
松田:これからどうなっていくか楽しみです。
 
喜多:そうですよね。自分の予想を超えることがあるので、まず飛び込んで欲しいですね。そして生き抜く力っていうのも留学で養われると思っています。困ったときに、何とかしなきゃっていう気持ちを養って、たくましく行ってきてほしいなと思います。

PROFILEプロフィール

  • 喜多 恵美子

    国際学部 国際文化学科 教授



    京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程単位取得退学。大韓民国弘益大学校大学院美術史学科博士課程修了(論文資格試験合格)人間・環境学修士。2005年、大谷大学文学部国際文化学科着任。
    近代西欧の概念である「美術」が非西欧社会でいかに受容されていったのかについて関心を持っている。一口に受容といっても、ここでは無批判的な追従を意味するのではなく、美術というシステムがいかにして当該社会に有用な形に咀嚼され汲み上げられていったのか、その過程をさしている。方法論としては日本と朝鮮(韓国)における近現代美術の比較分析を行っているが、文化的に似ていると考えられがちな日本と朝鮮(韓国)においてさえ美術に対するアプローチのありかたはかなり異なったものとなっている。そこから翻って日本と朝鮮(韓国)における「美術」や「近代」の意味を浮き彫りにしたいと考えている。



  • 中学生の頃に韓国のアイドルグループの曲を聴いたことがきっかけで、独学で韓国・朝鮮語を学び始めた。以降、韓国のファッションなど文化に興味を持ち、最近は歴史や政治にまで関心が広がるようになった。
    大谷大学に入学し、語学学習支援室(GLOBAL SQUARE)のアシスタントをしながら留学に向けて学びを深めている。20代のうちにいろんな世界を見て、将来は外国と日本をつなぐ役割ができる仕事に就きたいと考えている。