宗教系の高校で充実した生活を送ってきた岡本君は、仏教への関心を深めたいと、迷わず仏教学科の門をくぐりました。仏教学科で史料や経典を読む際に必須となるサンスクリットやチベット語、漢文などに悩まされてはいるものの、授業はどれも面白いと言います。仏教を通して現代の問題を考え、弱い立場にある人たちのことを念頭において、学びを今後の生活に反映させていく。仏教の徒として、歴史と伝統を備えた場での学びが始まっています。

07 大学でしかできない仏教の学びを大切にする

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岡本:先生が仏教をご専門にされたきっかけっていうのは何ですか?
 
戸次:高校の時から仏教を勉強しようとは思わなかったですけど、私の場合は寺院出身ということもあって、でもやっぱり家に関係することは勉強しなきゃいけないのかなと思いながら勉強していっているうちに面白くなっていったっていう感じです。卒業論文を書いてみたらもう少し続けてみたいなと思うようになって、大学院に行って、その延長線上に今があるという感じですね。
 
私の専門分野は中国仏教なんですけど、インドで興った仏教が、中国に伝わると漢語に翻訳されますよね。そういう漢訳された仏典と、それに基づいて著わされた仏教者たちの著作を読むことが私の研究の領域です。とにかく中国は文献の量に関しては困らないくらい多く残っているので、やることは山ほどあるんですよ。
岡本:なんでその研究をしようと思われたんですか?
 
戸次:私たちが住んでいる日本の仏教と、もともとの発祥地であるインドの仏教と、両方がどういうふうに関わってくるのかっていうことを考えていこうとすれば、やっぱりその間にある中国の仏教が非常に大事になってくると思います。でもインド仏教や日本仏教をやる人に比べると、中国仏教をやる人は少ないんですよ。だからその魅力をアピールしていけたらなと思います。残っている資料は膨大ですから。インドから中国への仏教伝来は、あるひとつの宗教や思想が他の地域に伝わるということを考えたときに、世界の歴史の中でもいろんな意味で特筆すべき出来事だったと思うんですよ。言語だけでなく、生活・風土・対社会的問題などいろんな違いがありますからね。もう少しその魅力が伝えられたらなと思います。
 
岡本:僕はサンスクリットにも苦労してますけど、どんなところが面白いですか?
 
戸次:中国にも、サンスクリットを知っている人たちはいたんだけど、漢語に翻訳されてからは、漢字・漢文の仏教が広まっていったんです。人は言葉で思考していきますから、漢字文化圏にはそこ独特の考え方があったんでしょうね。そういうのは面白いですよね。インドの仏教を勉強しつつも、世界に伝播した仏教を追っていくと、その土地ごとの特徴的な動きがあるんですよ。日本もその流れの先にあって。本当に、勉強したいことがたくさんあるのが仏教学科の魅力だと思います。ぜひ岡本君も広い視野を持っておいて、最終的に自分がこれをやってみたいと思うことを卒業論文にしていくと良いね。仏教の展開についてはどうですか?興味ある?
 
岡本:ないわけではないですけど、やっぱり大谷大学に入学してきたので、今は真宗に関心があります。
 
戸次:そうか、入学してまだ半年が過ぎたくらいだもんね。大谷大学で仏教を学ぼうと思うと、真宗学科もあるんだけど、真宗学と仏教学では迷いませんでした?
 
岡本:仏教学科一本でした。やっぱり「現代仏教コース」に興味があったので。
 
戸次:真宗を極めるよりも、広い視点で仏教を考えてみたいと思ったってことかな。たしかに、いろんなところに応用はしていけるかなと思います。仏教学科はそういう広がりや自由度はあるでしょうね。もちろん、真宗学科と同じことも学べるんですよ。親鸞聖人の視座を使って中国仏教を見ていくこともできるし、インドからの視座で日本の仏教を見たり。両者が重なるところもあるし、また視座の違いもやっぱりあるんですね。
 
真宗の寺院出身の人は真宗学科に多く行くイメージもありますが、でも仏教学科の教員の中にも寺院出身の人はいますし、住職をされている先生もいます。だから真宗寺院の人にも、他の宗派の人にも、ぜひ大谷大学の仏教学科で学んでもらえたらなと思っています。
大学でしかできない仏教の学びっていうのもあると思うんですよ。真宗で大事にしている経典以外にも、仏教にはいろんな経典がありますからね。そういうものに触れて広い仏教世界を経験していくのは大学でしかできないことだと思いますから、少し異なった角度から仏教を勉強するのは、必ず良い経験になると思います。岡本君の学びにも期待しています。

PROFILEプロフィール

  • 戸次 顕彰

    文学部仏教学科 講師



    1981年新潟県生まれ。2004年東洋大学文学部卒業、2009年大谷大学大学院文学研究科博士後期課程(仏教学専攻)満期退学。2011年博士(文学)。2009年大谷大学文学部任期制助教、2011年大谷大学非常勤講師ほか、2017年真宗大谷派親鸞仏教センター研究員を経て、2020年大谷大学文学部仏教学科講師着任。
    中国などの東アジア世界に伝わった仏教は、教義・修行のみならず、生活や対社会的なあり方など、さまざまな方面で変貌を遂げた。しかし一方では、それぞれの仏教者たちが、時代的課題を背負いつつ、変わらないものを保持して未来に教えを伝承していくことを志した。こうした仏道伝承の過程とその意義について考えている。特に現在は、中国における戒律文献の受容やそこに生じた律僧たちの問題意識に関して、南北朝時代から隋・唐代を中心に研究している。



  • 宗教系の高校で生徒会副会長を務め、生徒会活動の中でも仏教行事に参加してきた。既に僧籍を持っており、大学でも仏教への関心を深めたいと、迷わず仏教学科の門をくぐった。仏教学科で史料や経典を読む際に必須となるサンスクリットやチベット語、漢文などに悩まされてはいるものの、授業はどれも面白く感じている。
    仏教を通して現代の問題を考え、弱い立場にある人たちのことを念頭において、学びを今後の生活に反映させていく。仏教の徒として、歴史と伝統を備えた場での学びが始まっている。