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きょうのことば

きょうのことば - [2018年12月]

くつがえされた仮説は結果を生まなかったか。

「くつがえされた仮説は結果を生まなかったか。」
ポアンカレ(『科学と仮説』岩波文庫 181頁)

  ポアンカレ(1854-1912)は、フランスの数学者で、トポロジー(位相幾何学)の分野を開拓し、長らく未解決問題であった「ポアンカレ予想」で知られるほか、数理物理学や天体力学にも大きな貢献を果たしました。『科学と仮説』は、科学的な方法論や事象のとらえ方についてのポアンカレの考え方を述べた書籍です。

  科学者たちは、実験や観測によって得られた事実をもとに一般化を行い、さまざまな理論を構築してきました。このような営みは、いわゆる自然科学だけでなく、学問のさまざまな分野で行われます。しかし、有限個の実験・観測結果に整合する一般化はひとつだけとは限りません。あらゆる一般化はそれぞれ一つの仮説であり、その仮説は実験や観測によって繰り返し検証される必要があります。その検証を経てなお整合性を否定されなかった仮説は、理論として受け入れられます。

  仮説が検証に堪えられなかった場合、その仮説はあきらめて、別の仮説を考えなければなりません。いちど考えた仮説を捨てる場合、仮説を立てるために費やした手間はむだになるようにも見えます。採用されない仮説を立てて検証するような回り道をすることなく、「正解」である仮説に最短距離でたどり着きたいと考える人もいるでしょう。しかし、ポアンカレは、表題のことばに続けて、次のように述べています。

それでは、こうしてくつがえされた仮説は結果を生まなかったか。それどころではない、こういう仮説は本当である      仮説よりももっと余計に役にたったといえる。
 
  仮説をくつがえすような事実は新しい発見として重要な意味をもちます。そして、くつがえされた仮説があったからこそ、新しい発見につながる実験が行われたのです。さらに、前の仮説がくつがえされたからこそ、新しい仮説が作られるのです。また、新しく立てられた仮説が最終的な「正解」である保証もないのです。

  学問においては、無数のくつがえされた仮説が新しい発見につながってきました。感情としては、自分が立てた仮説や、正しいと考えた仮説に対して否定的なことを考えたくないというのは自然かもしれません。ですが、仮説がくつがえされることを恐れない態度が、学問では非常に重要なのです。

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