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きょうのことば

きょうのことば - [2018年05月]

手段が完成して目的が混乱していること、これが私の意見では現代の特徴です。

「手段が完成して目的が混乱していること、これが私の意見では現代の特徴です。」
アインシュタイン(『晩年に想う』 講談社文庫 137頁)

  アインシュタイン(1879 - 1955)は、ドイツに生まれた物理学者で、歴史上最も著名な科学者のひとりです。また、平和運動家としても精力的に活動し、核兵器廃絶・科学技術の平和利用を訴えた「ラッセル・アインシュタイン宣言」にもその名を残しています。

  『晩年に想う』は、アインシュタインが折にふれて発表した評論や講演などを集め、1950年に刊行されました。標題のことばは、1941年にロンドンで行われた科学会議に寄せた「科学という共通言語」と題した放送の中で語られたものです。科学的な方法論は、科学者の思考を形作る一種の共通言語であり、この方法論が起こした技術革命は、人類の生活を大きく変えました。

  このような変化に対する「科学的方法は人類に対してどんな希望と恐怖とを暗示しているでしょうか?」という問いに対し、アインシュタインは「かような質問は正しい形ではないと思います」と答えます。科学的方法が何を作り出すかは「人類の中に生きている目的の性質による」とアインシュタインは述べています。しかし、科学的方法は目的自体を提供することはできません。技術革命から生まれた電灯や鉄道などによって人々の生活が便利になった一方で、科学技術はさまざまな兵器も生み出し、それによって多くの人命が奪われました。標題のことばが語られた1941年は第二次世界大戦のただ中でした。敵を倒す兵器を開発するために科学技術が動員され、まさに目的が混乱しているというべき状況だったのです。

  しかし、アインシュタインはその状況を悲観することなく、「もし我々があらゆる人々の安全、福祉、および才能の自由なる発展を真剣かつ熱心に望むならば、我々はかような状態に近づく手段に欠けはしないでしょう」と述べています。実際、戦後、航空機や高速鉄道、気象衛星や通信衛星などから、私たちは多くの恩恵を受けています。その一方で、兵器の開発は引き続き行われ、世界各地で多くの人命が失われ続けています。さらに、戦後大きく発展した生命科学から生まれた遺伝子組み換えやクローンなどの技術が、目的次第で私たちの健康を守るものにも、伝染病などの災厄を起こすものにもなりえる、というような課題が多くの分野で生じています。

  私たち人類の希望は、科学技術をどのような目的に用いるかにかかっています。研究や開発をになうのはそれぞれの科学者だとしても、その目指す目的を考える責任は、私たちひとりひとりにかかっているのです。

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