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きょうのことば

きょうのことば - [2004年07月]

この一枚の紙のなかに雲が浮かんでいる

「この一枚の紙のなかに雲が浮かんでいる」
ティク・ナット・ハン(『仏の教え ビーイング・ピース』中公文庫p.68)

 これは、ヴェトナム出身の禅僧で、「エンゲイジド・ブッディズム」(行動する仏教、社会参加する仏教などと訳されます)で知られる、ティク・ナット・ハンの言葉です。彼は、ヴェトナム戦争当時より、非暴力による反戦平和活動を実践し、現在はフランスのプラム・ヴィレッジに設立した仏教者の共同体を本拠に各地で瞑想の指導を行っています。

 彼は9・11のニューヨーク世界貿易センタービルへのテロ事件直後にも、「慈悲の心を深めて暴力に応答する:平和への道」という声明を出し、暴力に対して暴力で対抗することの不正義を訴えました。そして、いまわたしたちに必要なのは、憎悪と暴力を生じさせた「誤解、不正義、差別、絶望」の原因を理解することであるとして、「アメリカは赦しと慈悲の行動をとるだけの英知と勇気を備えていると確信している」と述べたのでした。しかし、その後の事態の展開は、彼の訴えとはまったく逆に、憎悪と暴力を拡大再生産する道をたどっています。

 仏教では、「此あるがゆえに彼あり、彼生ずるがゆえに此生ず」と説かれます。万物の相依相待性を説く縁起の理法です。それをハンは「この一枚の紙のなかに雲が浮かんでいる」と表現するのです。この一枚の紙の存在は、雲の存在に依存しています。なぜなら、雲なしには水がなく、水なしには樹木は育たず、樹木なしには紙はできないからです。さらに紙を作るには木を伐る人が必要であり、森や人間が育つには太陽の光が必要であり、というように、その他いっさいのものがこの一枚の紙のなかにあると言えます。そして、この紙を見ている「わたしたち自身もこの紙の中にある」のだから、このわたしと関係のないものは何一つないとハンは言うのです。

 現代においてわたしたちは、地球規模での相互依存の関係の中に生きていながら、そのことに気づかないかのように、自分のことと他人のことを区別し、自分に関係があると思われることだけに囚(とら)われて生活しています。すべての関係を平等に見通すことができないわたしたちは、社会が複雑化すればするほど、より単純で分かりやすい見方や、手っ取り早い解決手段を求めてしまうというあり方に陥ってしまいます。

 しかしそれでも、わたしたちは、この一枚の紙から、いま口にしている食べ物から、すべてのいのちへのつらなりに気づき、思いをはせることができる。ハンはわたしたちの中にあるこの可能性を大切にしようと訴えます。そしてそれこそが憎悪と暴力、誤解や差別を直視し、その原因を見通す力になっていくと言うのです。

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