生涯学習講座

2006年度受講講座
『アジアを行く(4)ブータンと幸福論-宗教文化と儀礼-』

2006年度講座受講生/岩橋邦浩さん

岩橋さん写真

大谷大学とのご縁ができたのは、2000年9月に「ヨーロッパ文化研修旅行(ドイツ編)」に参加した時だったと思います。以来、ドイツ語、ドイツ文学、そして現在は仏教関係の授業をいくつか聴講しております。社会人向けの生涯学習講座も大変充実しており、出来るだけ多く参加するよう努めています。
印象に残っている講座はいくつもありますが、「ブータンと幸福論」(※1)もその一つです。ブータンについてはほとんど何も知らなかったのですが、本林先生のお話を伺っているうちに、中国とインドという大国にはさまれ、九州を一回り大きくした国土にわずか60万人の人々が住むヒマラヤの小王国が、実に興味深い国であることが分ってきました。

顔かたちは日本人によく似ており、同じ仏教徒ではあるが輪廻転生を信じ、お墓を持たないこと。訪れた日本人が誰でも懐かしさを感じる風景。パサパサの御飯と激辛の野菜料理。北は万年雪をいただく7,000m級のヒマラヤの峰々から、南は150m程の亜熱帯性のインド平原まで、全国土は密林に覆われた斜面の国である等々。しかし私がなによりも衝撃を受けたのは、この国では国の豊かさを示す指標として「GNP(Gross National Product)=国民総生産」ではなくて、「GNH(Gross National Happiness)=国民総幸福量」という全く新しい概念が提唱されていると知ったことでした。

講義のあとでは現地の民具などを見せてもらう

日本人は戦後、経済成長が国の豊かさであると信じて、がむしゃらに働いてきました。その結果、世界有数の経済大国になりました。しかし現在、我々はその目標を達成したという充実感に乏しく、むしろこの間に支払った代償があまりにも大きかったため、ある種の閉塞感が国民の間に漂っているように感じられてなりません。毎日目を覆いたくなるような凶悪な事件が発生し、年間の自殺者数もここ10年、3万人を超えています。人の命も自分の命もかけがえのないものだという意識が薄れてきたようです。

こういう時代だからこそ、ブータンは今注目されているのでしょう。2005年にはGNHに関する東京シンポジウム(※2)が開催されたそうです。そんなブータンを自分の目で確かめてみたいという思いが強くなっているのを感じています。

初代学長・清沢満之をはじめ、曽我量深、金子大栄など優れた仏教者を輩出してきた大谷大学で学べる喜びと誇りを実感している昨今です。今後とも社会に広く開かれた大学として、益々多彩な講座を提供していただくよう期待します。

(※1)2006年度後期開講「ブータンと幸福論−宗教文化と儀礼−」本林靖久(大谷大学非常勤講師)
(※2)ブータンと国民総幸福量(GNH)に関する東京シンポジウム2005
2005年 10月5日(水)、外務省は日本ブータン友好協会との共催により、公開シンポジウム「ブータンと国民総幸福量(GNH)に関する東京シンポジウム 2005」を東京において開催した。このシンポジウムは、来年2006年の日ブータン国交樹立20周年を控え、両国関係強化の気運を高めるべく、内外の第一線で活躍されているブータン関係者の出席を得て開催され、約130名以上の聴衆の参加を得た。シンポジウムでは、河井外務大臣政務官、ダゴ・ツェリン駐日ブータン大使の開会挨拶に続き、ブータンという国について、また、単なる開発ではなく、すべての国民の「幸せ」を増加させることを国家の使命とする「国民総幸福量」(GNH)の概念について講演が行われた(外務省HPより)。