朝日新聞 掲載 2015
「今、切り開く 教育力」
Vol.06 井上 摩紀 准教授



小学校教諭や幼稚園教諭を志す学生のための授業です。小学校体育科における陸上競技やマット運動などの技能を習得したり、幼児に対する運動遊びの技術を身につけたりします。特に重視しているのが、からだによる関わり合いです。人は言葉だけでなく、触覚や視覚などでも情報を共有し、コミュニケーションしています。例えば、人と関わってからだをほぐす「からだほぐし運動」は、お互いの緊張を解き、凝り固まった心をほぐします。体育教育の中でからだに触れ、仲良くなっていく感覚を感じてもらいます。
私のゼミでは、3年生にノンバーバル(非言語)コミュニケーションを教えます。人間関係を築くのに効果的な視線の合わせ方、座り方などを文献で学んだり、人との適度な距離間を実習で確かめたりします。教育実習や学校ボランティアをする時にも役立ちます。アプローチの仕方次第で、授業を受ける子どもの反応が劇的に良くなるのです。
100人を超える高校生に、「からだほぐし運動」を体験してもらいました。まず基本となるバディ(2人組)を作ります。背中合わせに座り、「せーの!」を言わずに、互いの片手を頭上に上げてパチンと合わせてみたり、背中を押し合いながら立ってみたりします。言葉ではなく、からだから発する気配を感じ合うのが目的です。
この後、目を閉じたバディの一人を、体育館中央にいる高校教諭の所までもう一人が声で誘導し、ハイタッチさせるゲームをしました。見えない恐怖感があるため、パートナーを信頼しないと動けません。高校生たちは笑顔で取り組み、講義後は「パートナーと仲良くなれた」「人との距離が縮んだ」という感想が多く聞かれました。見えない不安は負の感情です。しかし、相手を信じることで心がほぐれ、表情が柔らかくなり、その場の雰囲気も和らぎます。
教育・心理学科としては、まず、教師になりたいという強い思いを持ってほしいです。今の教師には、言葉の行間を読み取る力が求められます。その力をつけるには柔軟な心を持って、人とつながる経験を積むことが大切です。気になるのが、最近の学生の自信のなさ。努力することをいとわずに、色々な経験をする中で本当の自信は培われていきます。努力する過程では失敗もあるでしょう。その失敗や周囲のアドバイスを、素直に受け止められる人であってほしいと思います。
![[教育・心理学科 准教授]井上 摩紀](http://web.otani.ac.jp/file/nyushi/2015/ph_article2015_06_01.png)
奈良女子大学大学院人間文化研究科後期博士課程複合領域学科専攻修了。博士(学術)。大谷大学短期大学部幼児教育科専任講師を経て、2009年から現職。専門は体育学(体育心理、身体表現)
「教育・心理学科演習」=知識として非言語コミュニケーションを理解し、実際に視線・身体接触など意識的に行動を調整することで、他者に与える印象の違いを実感する。教育場面での活用を目指す。
井上 摩紀(教育・心理学科 准教授)紹介ページ
