事業目的

今から遡ること約百年、マックス・ウェーバーは近代の合理化が〈生の意味喪失〉を引き起こすという重大な問題を提起した。その後、とくに二つの世界大戦を経て以降、近現代という時代を批判的・反省的に問い返そうとする試みは様々な仕方でなされてきた。しかし現実には、そうした試みをあざ笑うかのように、現代産業社会において世俗化はますます進行し、グローバル化した市場経済の坩堝のなかに投げ出された人類にとって、環境、人権、生命倫理など〈生の意味喪失〉の問題は一層深刻なものとなっている。加えて、市場原理は大学などのアカデミックな領域にもすっかり浸透してしまい、その影響で、社会に対して実質的・具体的な〈貢献〉をなし得ると見なされる応用科学などの実学が偏重され、人文学や理科系の基礎学などは厳しい淘汰の波に洗われている。しかし、〈生の意味喪失〉という根源的な問題に人々が直面し、その克服が急務である状況にあって、人文学とりわけ仏教学のような学問は、その問題に対してまさに直接的に応え得る大きな可能性を有していると言える。

ところで、本学は1665年東本願寺の学寮として設立された。1901年には近代の大学として開学され、仏教研究と仏教教育の学問拠点として存続してきた。清沢満之や佐々木月憔、そして鈴木大拙のような世界的な思想家を擁し世界に影響力を持つ単科大学として一定の影響力を持ってきた。これは仏教が僧侶の専有物ではなく、政治的・文化的背景を超えて普遍性を持つことの証明であった。また、約16万冊の仏教研究に関する文献を所蔵する図書館・博物館は、例えば第二次世界大戦時には空爆すべきでないと進言すべく作成されたウォーナー・リストに加えられるほど極めて注目される存在となってきた。21世紀の社会が要請するものは、極めて専門性の高い学術研究成果の提供だけではなく、高度な専門的知見を持ちながらも現代社会の様々な局面でそれに対峙することのできる総合的かつ普遍的な叡智である。他の追随を許さない高度な学問的見識によって蒐集された貴重書を保存する図書館・博物館もまた、新しい仕方で世界に開いていく必要がある。

先に見た〈生の意味喪失〉という根源的な問題に、人文学とりわけ仏教学のような学問が応える可能性を持つと考える。したがって、第1に、本学がこれまでに取り組んできた仏教研究の蓄積をもとに、国際的研究基盤を形成する。第2に、アメリカやヨーロッパやアジアとのあいだで共同研究を推進する。第3に、人的交流を促進する。第4に、〈人類の知的遺産〉である仏教を社会に対して本学独自の普遍的〈人間学〉として開いていく。言い換えるなら、仏教の根幹にある〈社会の現実と向き合い、真実を探求し、確固たる生きる拠り所を持って歩む〉という精神に根ざす人文学を、本学独自の〈人間学〉として社会に開く。

この研究事業を通して、本学が〈人間学〉の大学であるというブランド・イメージを確立する。

期待される研究成果

(1)仏教を基軸とする学術研究拠点の構築と国際的仏教研究によって得られる成果

真宗総合研究所を中心に諸外国との協同的体制をとって仏教研究を推進する。得られた成果を刊行する。このことにより、人文学の重要性を世界にアピールすることができる(人文学の復権)。

  • 東方仏教徒協会(Eastern Buddhist Society)設立100周年記念シンポジウムの開催と、学術雑誌The Eastern Buddhist 記念号を発刊する。
  • アメリカのカリフォルニア大学バークレー校との日本仏教の共同研究の成果をアメリカで出版する。(アメリカでの仏教の啓蒙活動)
  • ベトナム科学アカデミーとの共同研究により仏教の啓蒙書『日越仏教史』をベトナム語で出版する。ベトナムにて日本文化を学ぶ基盤を醸成することになる。
  • 中国における仏教振興の中核となる国家機関・中国仏教協会が設置する北京仏教文化研究所と共同研究を実施した成果を相互に両国の学術雑誌に掲載する。(中国との相互文化理解)
  • ハンガリーのエトヴェシ・ロラーンド大学で「日本仏教」講座を本学教員が開講する。
    共同シンポジウムの開催と成果を出版する。

(2)社会貢献・事業の公開

本学が有する文献を公開する。

  • 漢籍書の仏教文献研究を牽引する情報発信の拠点となる古典籍文献データーベース
  • インド・チベット語古典籍仏教文献(写本・刊本)データーベース

研究計画